虹色のラブレター
「智が好きなことだから"やめて"とは言わない……」
『うん』
「でも、何かあったら悲しむ人がいるんだから……」
美貴は真剣な目でそう言った。
僕は何も答えることが出来なかった。
ただ、彼女の目から目を逸らすことが出来なかった。
やがて、少しの沈黙の後、彼女はクスッと笑って口を開いた。
この話はもうおしまい、という感じだった。
「私ね……」
『うん』
「もっと頑張ろうと思うの」
『何を?』
「私生活もバイトも恋愛も」
『ちゃんと頑張ってるじゃん』
彼女は大きく何度も首を横に振った。
「このままじゃダメなの」
『どうして?』
「もっと素敵な人になりたい……」
だから、と彼女は続けた。
「バイトじゃなくてちゃんとした仕事も探そうと思ってるの……お酒もやめようかな?って」
『うん……それはすごくいいことだと思うよ』
「でしょ?そうやって頑張ることが素敵な人なのかどうかはわからないけどね……」
『うん』
「でも頑張ってれば素敵な人に少しでも近づいていけるような気がするの」
『でも、どうして?』
「自分が素敵だなって思う人に好かれるためには、自分もその相手にとって素敵な人だなって思ってもらえるような人にならないと駄目だと思うから」
――素敵な人に好かれるためには素敵な人にならないと駄目……という事か。
それはある意味、理屈の通った言葉だった。
「片思いは……何もしないで好きな人に気持ちを伝えるだけじゃ実らないってこと、かな?」
『それって……』
美貴は言い過ぎたと後悔をしたように肩をすくめて少し俯いた。
頬は薄くピンク色に染まっていた。
彼女の目が騒がしく動いているのが想像できた。
「いいの」
彼女は囁くように言った。
『でも……』
「気にしないで、一般論を言っただけだから……」
彼女の言葉にはまだ続きがあるようだった。
少しの間、その僅かに開いた唇は閉じられることはなかった。