虹色のラブレター
僕たちは海に来ていた。
それは僕が初めて美貴と会った日、彼女に紹介した”海の展望台”だった。
”海の展望台”に来たのは、あの日以来久しぶりだった。
でも、その様子はまるで変わっていなかった。
静かに打ち寄せる波の音、潮風が耳元を吹き抜ける音が騒がしく聞こえた。
ただあの日と違うのは、陽がとっくに沈んでいたことと、二人の気持ちだった。
「ね、覚えてる?ここに私が初めて連れて来てもらった日のこと」
美貴は長い黒髪を潮風になびかせながら、長く瞼を閉じて言った。
頭の中であの日のことを思い描いているようだった。
僕はそんな彼女の横顔を見ながら答えた。
『うん、もちろん』
彼女の視線は、すっかり陽の沈んだ水平線にあった。
「あの日の空はすごく綺麗だった……」
『うん……』
彼女はもう一度ゆっくりと瞼を閉じた。
今度はさっきよりも長かった。
「こうやって目を閉じて……あの日の空を思い返す度にいつも思ってたの」
そう言って、彼女は真っ直ぐな視線を僕に向けた。
「智に謝らなきゃって……」
僕の体は一瞬で凍りついたように動けなくなった。
言葉も出なかった。
あの日、と彼女は小さな声で続けた。
「私が言ったこと……」
『うん……』
「私の為に我慢してって……言ったじゃない?」
『う……ん』
僕は小さく頷いた。
「ごめんね」
そう言って彼女は寂しそうに地面に視線を落とした。