虹色のラブレター
* 10 *
やがて季節は長い冬を越え、春を迎えた。
あの日以来、美貴とは喫茶店以外で会うことは一度もなかった。
それまでは月に2~3回のペースで会っていた。
まるでお互いがお互いの寂しい気持ちを埋めるかのように。
でも、僕は自分から彼女を誘うことはしなかった。
僕は彼女の気持ちに答えることが出来ないし、きっと彼女もそんな僕に気遣ってのことだと思ったからだ。
そんな日常が続くと、忘れようとしていた僕の中の千鶴への思いはどんどん膨らんでいった。
そして、それは逆に美貴の存在の大きさを感じさせることでもあった。
そんなある日、僕のポケベルに知らない電話番号からの呼び出しがあった。
それは僕の仕事が休みの日の午後のことだった。
部屋で音楽を聴きながら時間を潰していた時、テーブルに置いていたポケベルが僕を呼んだ。
何気なくポケベルを手に取り表示されている番号を見ると、それは今まで一度も見たことのない番号だった。
その番号を見て僕はポケベルを置いた。
職場からの呼び出しならばポケベルを鳴らすなどという回りくどいことはしない。
直接家に電話をかけてくる。
ならばこれは無視していても問題はないのだ。
そう思ったが、やっぱりもう一度すぐに手に取り電話をかけてみることにした。
理由はわからなかったが、かけなければいけないような気がしたのだ。
受話器からトゥルルルルという電話の呼び出し音が聞こえ始め、その音が3回目に入ったところでその音は途絶えた。
「も、もしもし……」
聞こえてきたのは女の子の声だった。
『もしもし?』
聞き覚えのないその声に僕は聞き返した。
「もしもし……智(さとし)?」
『え……』
僕のことを智(さとし)と呼ぶのは家族以外にただ一人しかいない。
その瞬間、僕の心臓は高鳴り、その音は受話器の向こう側にも聞こえそうなくらい大きな音をたて始めた。