虹色のラブレター


すると、千鶴は引き出しから勢いよく赤い手帳を取り出して、ペンを持ち、そこに何やら文字を書き始めた。

僕は彼女と初めてオールをした日のことを思い出した。

千鶴はあの日も、その赤い手帳に何やら文字を書き込んでいた。


『あの日も何か書いてたよね?』


千鶴は手を止めずに答えた。


「うん。オールした日でしょ……」


『そう。いつも何を書いてるの?』


彼女はチラッと僕の方を見てから、またすぐに続きを書き始めた。


「教えな~い。でも、そんな大したこと書いてないから」


そう言う彼女の目は真剣だった。


『見せて?』


「やだ」


『いいじゃん』


「駄目」


『どうして?』


「だって恥ずかしいもん。絶対、見ちゃ駄目だよ?」


そうやって僕に念を押してから、千鶴は手帳をさっさと元の引き出しに仕舞った。






< 130 / 278 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop