虹色のラブレター
* プロローグ *
彼女は強い人だった。
そのことを自分でわかっているのかどうかはわからなかったけど、彼女はそれを隠すようなことはしなかった。
彼女は素直で真っ直ぐな人だった。
だから、僕も素直に真っ直ぐに向き合えたんだと思う。
でも、一度だけ……
たった一度だけ……
彼女は僕のために嘘をついた――……。
「気にしないで……落ち着いたら、また電話するから」
彼女の小さな、だけど、はっきりとした声が受話器越しに聞こえた。
この時、僕はその言葉を聞いて安心し、”待つ”ということに疑いも不安も感じていなかった。
『……うん。わかった……ごめん。せっかくベル鳴らしてくれたのに行けなくて』
「ううん、いいんだよ。仕方ないじゃない……じゃ早く行ってあげて」
『わかった。じゃ……』
「……うん。じゃまた」
だけど、それが僕の聞いた彼女の最後の言葉だった。
この時、僕は彼女の嘘に気付いていなかった。
まだまだこれからが本当の始まりで、その先もずっと続きがあるものだと思っていた。
あんなに近くにいたのに、こんなにもすれ違ってしまっていた僕たちの気持ちはやがて……
僕の心に止まない涙の雨を降らせた――……。
―虹色のラブレター