虹色のラブレター
来た道を少し戻ると、真っ暗な路地にポツンと置かれた公衆電話を見つけた。
車から降りると、そこは本当に真っ暗で静かな路地だった。
ハザードの点滅がやけに眩しく感じて、エンジンの低いアイドリングの音だけが路地に響いた。
僕は急いで受話器を手に取り、テレフォンカードを差し込んだ。
プッシュホンをなぞる指に自然と力が入る。
嫌な予感がする……僕の胸騒ぎはおさまらなかった。
1回目のコールを聞く間もなく、千鶴の「智?」と呼ぶ声が受話器から聞こえた。
『千鶴?』
「ごめん。今日は用があるって言ってたのに……」
彼女の声を聞けば安心出来ると思っていた。
だけど、その声は千鶴らしくない、弱々しい声だった。
さらに不安になった僕は、もどかしさから荒々しく声を出した。
『ううん、いいんだ。それよりどうかした?何かあった?』
「智……」
『うん?』
千鶴はそこで黙ってしまった。
僕は受話器を耳に押し付けたまま、ジッと彼女の言葉を待った。
その間に車が一台、僕の車を避ける様に通り過ぎていった。
長い沈黙の後、千鶴は言った。
「智、あのさ……」