虹色のラブレター
「でも……あの人のお前を見る目。あれは"好き"っていう目だったぞ?」
その言葉を聞いて僕は雑誌から顔を上げた。
彼は意外にも、そういうことに対しては敏感だった。
だったら彼女(千鶴のこと)が自分に気がないということもわかっているのだろうか。
いや、そんなことはない。
人は自分のことはよくわかっていないものだ。
実際、僕だって美貴の気持ちには気付いていなかった。
だから貴久もどうしたらいいのか悩んでいるのだ。
『それは……わかってるよ。でも、僕は……』
「じゃ何?お前……あの人が自分のこと好きだってわかってて遊びに行ってんの?自分はその気もないのに!?」
貴久の声が少し大きくなった。
その時、珍しく千鶴が僕たちのコーヒーを運んでくる姿が厨房の方から見えた。
今日は貴久と一緒に居るからなのだろうか……。
僕が一人で来ている時は、美貴が休みの日以外は持って来ることがなかった。
相変わらずエプロンは大きく見えるが、彼女がコーヒーを運ぶその姿は、その頃にはもう慣れたもので危なっかしくもなんともなかった。