虹色のラブレター
『乾杯』
「乾杯」
僕たちはグラスを合わせた。
「何に乾杯?」
美貴が訊いた。
『う~ん……初めての旅行にかな?』
「そっか……そうだね」
彼女は少し俯いてからもう一度すぐに顔を上げ、じっと僕の方を見ていた。
『……どうしたの?』
「明日……帰っちゃうんだよね」
『そうだね。着替えもないし……』
それから長い沈黙があった。
彼女は黙ったままグラスに口をつけワインを飲みほした。
僕もつられて一口、二口とワインを飲んだ。
少し体が熱くなってきて、果物ジュースみたいな感覚だったワインにアルコールを感じるようになってきた。
彼女の頬もほんのりとピンク色に染まっていた。
「明日……」
美貴の小さな声が聞こえた。
それは聞き逃してしまうくらい小さな声だった。
『なんて?』
「明日も一日よろしくお願いします」
少し恥ずかしそうな仕草を見せながら彼女は言った。
美貴は僕よりも大人だったが、時々こんな子供っぽいところを見せるのだ。
少しの空白を開けて僕は返した。
『こちらこそ……よろしく』