虹色のラブレター
* 6 *
一週間ぶりに出勤すると、働き慣れた職場がなんだか少し懐かしく思えた。
そんな休みの余韻に浸っている暇もなく、休み明けから僕の仕事は山のように用意されていた。
時間を忘れ、仕事に追われていると、あっという間に昼になり、いつものように貴久が僕を休憩に誘ってきた。
僕たちはいつもの様に社員食堂で食事を済ませ、喫茶店に足を運んだ。
美貴とは旅行から帰って来た日以来、会ってもいなかったし連絡も取っていなかった。
当然、携帯も持っていない時だったから、それくらいは当たり前のことだった。
久しぶりの喫茶店……僕はかなり緊張していた。
いつもは僕が貴久の半歩前くらいを歩いて、彼が僕について来るような感じで歩くのが普通なのだが、この日は貴久が僕の半歩前を歩いて、僕が彼について行くような形で喫茶店に入っていった。
「どうした?」
貴久は歩きながら、半歩後ろにいる僕の方を振り返りそう言った。
慣れていないのか話しにくそうだった。
『いや……別に』
「お前がそこに居ると話しにくいんだよ」
そして、「いつもはお前が前だろ?」と彼は続けた。
『いいじゃん……別に』
彼は納得のいかないような表情だった。
ボーリング場の駐車場を横切り、3段ほどの階段を上がったところで、目の前の自動ドアが僕たちの到着よりも先に開いた。
そこから勢いよく飛び出してきた女の子は千鶴だった。
焦った様子で僕たちのすぐ傍を走り抜けていった彼女は、髪の毛で顔を隠しているようだった。
でも、僕には彼女の横顔が見えた。
千鶴は眼帯をしていた。
「あれ?今の……」
貴久も気付いていたみたいだが、僕の方に顔を向けていた彼には、彼女の顔は見えていなかったみたいだ。
『天野さんじゃないの?』
「やっぱり?……どうしたんだろ?」
『さあ?』
僕はあえて彼女の眼帯のことは彼には黙っていた。
明らかに千鶴は顔を隠していたのだから、それは見られたくなかったことなのかも知れないと思ったからだ。