虹色のラブレター
千鶴がボーリング場の外に出ていったことで、僕は貴久の半歩前に出て歩き出した。
それは、僕の緊張が気付かないうちにほぐれていた証拠となる行動だった。
でも、そのことに気付いていたのは、貴久だけだったのかも知れない。
いや、彼が気付いていたかどうかというのも確信を持ってそうと言えるわけではない。
ただ確信を持って言えるのは、僕自身がそのことに気付いていなかったということだけだった。
僕たちがいつものテーブルに座ると、美貴が注文を取りに来てくれた。
彼女は僕たちのテーブルの傍に立ち止まり、一度その長い黒髪をかき上げた後、「久しぶり♪」と僕に声を掛けた。
僕は顔を上げて彼女と目を合わせ、「うん」と頷いた。
久しぶりに美貴を見て、改めて綺麗な人だと思った。
美しいのは外見だけではなく、彼女自身が水晶のように綺麗で濁りを知らなかった。
そんな人がどうして僕を?という疑問の答えはいくら探してもみつかることはなかった。
「注文は?いつもと同じ?」
彼女はいつもと変わらない笑顔を見せた。
『うん♪アメリカン……アイスで』
「りょ~かい♪……友達は?」
貴久は気を遣ってか、また読みもしない雑誌を広げて俯いていた。
「……俺も一緒で」
「はいっ♪りょ~かい♪」
そう言って彼女は伝票をテーブルに置き、もう一度僕と目を合わせて微笑んでから、厨房の方に歩いていった。
美貴が僕たちのテーブルを離れたことを確認してから、貴久は広げていた雑誌をゆっくり閉じた。
彼は一度「フー」と溜め息のようなものをついてからタバコを手に取り、口を開いた。
「あれからどうなってるの?」
彼がそのことを一番に訊いて来ることは誰だって予想できる。
『ん?……一緒に旅行してきた』
「え!?旅行!?」
その時の彼の声は、すぐ隣のボーリングのレーンのピンがストライクで倒れる音よりも大きかった。