虹色のラブレター

それからしばらく無言の時間が流れた。

雑誌や新聞を全くと言うほど読まない貴久は、喫茶店に置いてあるテレビを見ているようだった。

先に話しかけてくるのはいつも彼の方からだった。

今回もやはりそうだった。

でも、いつもと何か様子が違うようだった。

それは、彼らしくない……ちょっと遠慮したような言い方だった。


「なぁ……お前に頼みがあるんだけど」


雑誌から顔を上げた僕は彼の顔を見た。

普段なら彼の言葉に耳を傾ける程度だが、今回は無意識に彼の表情を伺ってしまった。

それだけ僕は、彼の言葉に何か重要な意味があるように思えたのだろう。

案の定、彼の目は真剣だった。

でも、その目の奥には本当の何かを隠しているようにも見えた。


『なに?俺にできることなら……』


彼は少し言いにくそうに言葉を並べた。


「あのさ……あの……」


『うん』


「お前さ……」


『なに?お前らしくないな』


僕が笑っても、彼は表情を変えなかった。


「いや……お前、あの人と仲いいじゃん?」


『美貴さんのこと?』


「うん、それでさ……」


『それで?』


「できたらでいいんだけど……誘ってみて欲しいんだ……」


貴久が何を言おうとしているのか僕にはわかった。

というよりも、直観的におおよその見当がついた。

だから僕はすぐに頷いて答えた。


『いいよ。つまり天野さんを美貴さんに誘ってもらって、4人でどこかに遊びに行こうってことだろ?』


僕がそう言うと彼の表情は安心したように明るくなった。

僕の直感はどうやら的中だったらしい。


< 74 / 278 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop