虹色のラブレター
中に入ると部屋は僕が思ってた以上に狭かった。
タバコとアルコールの余韻が残っていて、カラオケボックス特有の匂いがした。
横に長い部屋で一列に並べられたソファーに、僕、貴久、千鶴、美貴の順番で並んで座った。
貴久と千鶴を隣同士で座らせるのは作戦通りだったが、横一列のソファーは予想外だった。
それぞれにドリンクを注文し、僕が入れた曲からカラオケは始まった。
テーブルに並べられたドリンクの中で、美貴の前に置いてあったのはやっぱりお酒だった。
しかも、信じられないくらいのスピードで飲み干しては、何度も注文を繰り返していた。
話は聞いていたが、正直、その飲みっぷりには感心するしかなかった。
そんな彼女は、その頃流行っていた"大黒摩季"の曲なんかを振り付けの真似なんかもしながら唄っていた。
千鶴も合わせて同じように振り付けの真似をしながら盛り上がっていた。
さすがの美貴も少し酔っていたのだろうか。
普段ならそこまではしないはずだ。
でも、千鶴の盛り上がり方には驚いた。
もちろん、お酒は飲んでいない。
この前、路地で会った時の千鶴からは想像も出来ない笑顔だった。
僕は彼女の新しい一面を発見したようで内心喜んでいた。
『天野さんと話した?』
気になった僕は貴久に訊いた。
「いや、全然……」
『おいおい、何のために来たんだよ』
「わかってるんだけど……なかなか……」
『とりあえず世間話でもして……連絡先くらい聞いとけよ』
「ああ……わかった」
彼の自信のないような返事があった。
それでも彼は彼なりに、必死で千鶴と話しをしているようだった。
カラオケボックスでの2時間という時間はあっという間に過ぎていく。
時間延長という手もあったが、みんな明日も朝から仕事といことで、僕たちはそのまま部屋を出た。
外の空気がやけに涼しく感じた。
「涼しい~♪」
お酒を飲んでいた美貴にとっては、僕ら以上に外の空気は涼しく感じたのだろう。
彼女は空を仰いで一度伸びをしながらそう言った。
足は少しふらついているようだった。