は?何それおいしいの?
おいしく熟すまで待つんです
今年、受験という地獄を乗りきり、やっとこさ花の女子高生となったあたし、市軸 実花(いちじく みはな)。
今思い出しても胃が痛くなる。あの1年は地獄だった。
あたしはそこまで頭がいいわけでもなく、むしろ定期テストで半分とれていればいいや、という人だったから今の高校に入学できたのは奇跡と言っても過言ではない。
だって希望してたのよりランクが2こぐらい上だし。一生分の運を使いきった気がする。
合格通知がきたときは家族全員で小躍りしたっけ。
弟には至極真面目な顔で「受からないと思ってた……これ間違えたんじゃね?」と言われた。
お前は姉の努力を全否定するのか。少しは姉を信用しやがれ。
とまぁまぁそんなこんなで高校生になり、楽しい高校生活をエンジョイし、夏休みも明けて高校が再び始まった時期。
「お母さーん、あたしのお弁当はー?」
「えー?テーブルの上にあるでしょー」
「えー、あった。じゃあ行ってきまーす」
行ってらっしゃーい、という声を聞きながら玄関を出ると、見慣れた姿が目に入った。
「おはよー」
「………んー」
うっわ生返事。しかも時間差。いつものことだけど。
行くよ、と袖を引っ張って歩き出せば逆らわずに動き出すこいつ。
こうして袖を引っ張りでもしないと永遠にこのままでいるに違いない。
なぜならこいつの目線はあたしを見ているわけでも、まして空や地面を見ているわけでもない。
その視線を釘付けにしているのは手元の本で、意識もそちらにガッチリと掴まれている。
ただし、本が好きというわけでもなく。こいつの好きなのは、
「あいかわらずのグルメ雑誌……」
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