は?何それおいしいの?



奢るよー、タダだよー、おいしいものが食べられるよー、と言われてしまえば揺らぐ心。


何よりタダで飲み食いできるっていうのはかなり魅力的だ。



「……いつなの」



結局折れてしまったのはあたしの方。


うるうるのなしのんの瞳とタダ飯に負けた。うわ、なんて現金なあたし。


やったー!!とはしゃぐなしのんは教室のみんなの視線を集めている。


余程うるさかったのか、桃も視線をこちらに向けていた。うん、ごめんなさい。



「ちょっと、なしのん静かに」


「あはっ、ごめんごめん!つい嬉しくってぇ」



むぎゅーっと抱きしめられながらの台詞に、まぁ悪い気はしない。



「えーと、予定だと今週の土曜だよ!」


「結構はやいね」



明後日じゃん。でも土曜なら何も予定はないはず……行けそうだな。


授業開始のチャイムが鳴り「詳しいことはまた連絡するねー!」とご機嫌のままなしのんは席に戻っていった。



「ほら桃、それしまって」


「………」


「桃?」



あれ、無反応?そんなにおいしそうなの見つけたのか?


仕方ないなぁ、とあたしはカバンを漁ってキャラメルを取り出す。



「桃ーこっち向いて」



トントンと肩を叩けば気づいたようで、こちらを向いた桃の唇にキャラメルを押しつける。


そうすれば条件反射のように口を開けてキャラメルはコロンと桃の口に吸い込まれていった。


この瞬間って結構好きなんだよね。なんか、動物に餌付けしてるみたいで。



「気づいた?じゃあそれ片づけて授業受けよ?」


「……ん」



モグモグと口を動かしながら、なんとも複雑そうに顔を歪めておとなしくグルメ雑誌をしまう桃。


そんなにいいところだったのね……でも勉学は学生の仕事だから諦めてくれ。


成績の低いあたしが言うことでもないけど。


それからは特に何かを言うわけでもなく、桃はおとなしく授業を受けていた。





< 10 / 84 >

この作品をシェア

pagetop