は?何それおいしいの?



授業もすべて終わり、放課後になったので帰る準備を進める。



「ハナ」


「うん?どうしたの、桃?」



手を止めて隣を見るとすでに帰る準備万端の桃があたしを見ていた。


そういえば今日は2回も名前呼ばれたや、とどうでもいいようなことを思い出す。


ほとんど学校では名前呼ばれないからなぁ。というのも桃が関わり持つ人があたしを含めて数人しかいないからなんだけどね。



「あー、今日シンが放課後遊ぼうって」


「西瓜(にしうり)くんが?」



ん、と頷く桃。それを見計らったように廊下から「おーい!」と大きな声が聞こえてきた。


ひょこん、と教室のドアからセピア色の短髪に片耳にだけあるシルバーのピアスが光っているのが見えた。


子犬みたいな愛嬌のある明るいこの人が、中学時代から桃と仲の良い西瓜 信太郎(にしうり しんたろう)くん。



「よっ、市軸!今日トーヤ借りるぜ」



ニカッと笑った顔はその頃から変わっておらず、太陽のように明るい。


桃を通じてではあるけど、あたしも西瓜くんとは少し面識がある。


西瓜くんなら桃の扱いも慣れているし安心して任せられるだろう。



「分かった。桃のことよろしくね」


「おう、任せとけ!行こうぜトーヤ」


「ん、」



肩を組んで、というよりも西瓜くんに組まされ引きずられていく桃を見送り、あたしも止めていた手を動かし始める。





< 16 / 84 >

この作品をシェア

pagetop