は?何それおいしいの?
「ねぇ、それおいしい?」
と昔話はともかくあたしに聞かないでよ、と言いたいところだが目の前の子は固まって反応できずにいる。
周りにいる人も然りだ。あたししか答えられる人がいない。
「……おいしいのもあればおいしくないのもあるんじゃない?」
まぁ、あたしはまだ恋愛したことないから分からないけど、と心の中で呟いておく。
桃だけならまだしも、こんな人の多いところで自分の恋愛歴を暴露するのは遠慮したい。
「ふーん」
そっか、なんて納得したんだかしてないんだかよく分からない返事をして桃は歩き始めた。もちろん目の前の女の子はスルー。
というか返事、告白の返事しなさいよ。
慌ててその後を追えば「あ、」ともらした桃。
「あんまりおいしそうじゃなさそうだしいらないや」
クルリと振り返ってそれだけを言い、追いついたあたしから雑誌を取り返してさっさと校舎に入っていった。
そしてこの1件は瞬く間に学校中に知れ渡り、桃の立ち位置は「鑑賞用」になったのだった。
まぁ中には「変人でも天野くんが好き!」という強者もいて、ほとんどいっしょにいるあたしに対してささやかな嫌がらせ的なものもあるけど、そこまでの害はない。