は?何それおいしいの?
な、なな、何を言って……!?とパニックなあたしに桃は無駄に妖艶な笑みを向ける。
「でも、もういいよね?」
「な、にが……」
ゾクリ、その笑みに得も言われぬものが背中を這う。な、なんか頭の中に危険注意報、いや警報が鳴っているような。
こてん、無邪気にも見える動作で首を傾げた桃の表情は逃げだしたくなるぐらいに蠱惑的で猟奇的。
「だって俺とハナはおんなじ気持ちでずーっとそばにいたんでしょ?なら我慢する理由も遠慮する理由も躊躇う理由も何もなくなったよね」
「あ、えと、」
なんだろう。否定しないといけない気配がぷんぷんするのに言葉が出てこない。
それもこれも桃に逃がさないとばかりに真っ直ぐ見つめられているからなんだけど……
答えなきゃ、でも何を?とかなり焦るあたしに桃は少し悲しそうな顔をして。
「……もしかして違うの?」
「ち、違くない!!」
反射的にそう答えてしまってから「あ、」と相手の策略に嵌まってしまったのを感じた。
案の定というか満足そうな笑みを浮かべる桃にしまったと思った。
「だよね。じゃあ何も障害はないわけだ」
障害はないけど気構えはある、と言ってやりたかったけど、桃の凄艶な雰囲気にゴクリと言葉は飲み込んだ。
ドクドクとやまない心臓の音が聞こえる。緊張から強張る体にまだ繋がれていた片方の桃の手のぬくもりがじんわりと伝わった。
ゆったりとした笑みを浮かべたまま鼻先がくっつきそうなぐらい近づいた桃はゆっくりと口を開いて。
「それじゃあ、たっぷりと―――いただきます」
Fin.