ソウルメイト -彼女のおまじないは悪!?-
秋良宗は、学校中が認める優等生だ。
生活態度も問題なく、友人も多い。勉強もできるし、爽やか系アイドルのような外見から言えばエモリエルに引けをとらない容姿をしている。
宗本人もそういった自分の評判を自覚しているので、決しておごることなく謙虚な姿勢を貫いていた。どれだけ褒められても調子に乗ることはない。
そんな彼は、学校中から寄せられる評判とは裏腹に、小心者でもあった。
(好かれているうちは皆優しくしてくれるけど、嫌われたらどうなるか分からない)
彼は知っていたのだ。学校で嫌われ者になったら学生生活は灰色になるということを。
なので、学年で人気のある女子に告白されてもやんわりと断った。男子生徒を敵に回したくなかったからだ。
宗は、永愛と関わる前から彼女の存在を知っていた。永愛には悪いウワサがついて回っていたからだ。
暗い。おとなしい。無口。特定の女友達としかしゃべらない。存在感のない生徒。皆、そうやって永愛の陰口を叩き笑っていた。
(絶対ああはなりたくない…!)
決してマネたくない悪い見本のような女子。そう思っていたのに、瀬川奈津を通して永愛と話す関係になってしまった。
周りの評判を気にした宗は、もちろん、永愛に対しても邪険に振る舞ったりはしなかった。内心「僕に関わらないでよ」と叫びつつ、「誰にでも優しい秋良宗」を演じていた。
瀬川奈津を通して仲良くなっていく宗と永愛の関係に、学年中の生徒が注目していた。
「秋良、このままいくと渡辺と付き合うかもな」
「異色のカップルだ」
「これで振ったら、秋良鬼畜だわ」
興味本位に面白おかしく話す声。日々増す注目の視線。宗はどんどん追いつめられていった。
(渡辺さんに告白されて断ったら、皆から「あんなに仲良くしといて振るなんて、やっぱり秋良君も普通の男子と変わらないね」とか思われて、僕の評判は悪くなる…?)
人気者の女子から告白されるのとはワケが違った。学年でも評判の悪い女子の告白を断るのは、宗の人間性を疑われるのと同義なのだ。
(頼むから告白なんて絶対してこないで、渡辺さん…!)
宗の願いとは裏腹に、やはり、永愛は告白してきた。
「秋良君は覚えてないと思うけど、入学式の日、教室の方向が分からなくて迷ってた時丁寧に案内してくれたよね。あの時から秋良君のことが好きでした。とても優しい人だなって思って……。そんな風にされたの初めてだったから」
(それはお前が優しくされることに免疫ないだけだろ!?僕は皆にそういう風なんだ。勘違いするなっ…!)
絶叫したいのを寸前で抑えた。思ったことをありのまま言おうものなら、今まで時間をかけて築いた評判が地に落ちる。それだけは避けなくてはならない。
「……ありがとう。そんな風に思ってくれてるなんて。僕でよければ」