ソウルメイト -彼女のおまじないは悪!?-
「…本当に、私なんかでいいの?」
「うん。嬉しいよ。これからもよろしくね」
信じられないといった表情で目を潤ませる永愛に、宗は笑顔を見せ内心毒づいた。
(断られる可能性考えてたんなら最初から告白なんかしてくるなよ!)
こうなった以上仕方ない。彼女の気持ちが冷めるまで適当にやり過ごそう。
(男に免疫なさそうだし、恋に恋してるだけじゃない?僕のこともそのうち飽きるだろ)
手さえつながなければ、関係もそれ以上深まることはない。表面的に彼氏役をしつつ、彼女との関係が自然消滅するのを待った。
なので、宗にとって、永愛が他の男子生徒と親しくなるのは願ってもないチャンス、そのはずだった。
しかし、いざその時が来ると、今度は違う懸念が生まれた。
(人気者で通ってる僕が、あんな陰気女に振られたなんてウワサが広まったら……。「秋良君って評判ほどいい男じゃないんだね」って女子達に思われるかも…!そんなの、僕のプライドが許さない!)
それに、今まで見下していた相手に浮気されて終わるなど、屈辱の極みだ。
「僕ほどの男と付き合えてるっていうのに、身の程知らずな女だな」
宗は、じりじりと永愛の後ろ姿をにらんだ。エモリエルと海堂瑞穂に囲まれ楽しげに下校する彼女をーー。
永愛達の気配が校内から消えても、宗はしばらくそうして下駄箱の影に隠れていた。無意識のうちに力の入った指先で、壁を引っかく。
部活に励む生徒の声が遠くに響く。それすら耳に入らなくなった頃、
「アンタこわいよ。ストーカー?」
突然背後から女子生徒に声をかけられた。宗の心臓は飛び出しそうになる。
「琴坂さん…」
琴坂(ことさか)いなみ。学年でも目立つ、ショートヘアをした背の高い女子だ。目がパッチリとして顔立ちも整っている細身の少女。いなみは、男子より女子に人気のあるタイプだ。
小学校からいなみと同じクラスだった宗は彼女に苦手意識を持っていたが、優等生を貫きたい彼はそれを隠していなみと接した。
「琴坂さんも部活?小学校の頃からバスケやってたよね」
「中学では部活やってない。家のことしないといけないから」
「そ、そうだったんだ……」
会話が途切れる。同じクラスなのに、宗はいなみのことをほとんど何も知らなかった。
知っていることと言えば、小学校時代にいなみの両親が離婚したことや、昔からバスケの才能が高かったこと、そして、塾などに通っていないのに宗と並ぶくらい成績優秀であるということくらいだ。
そして、もうひとつ。かつてのいなみがいじめられっ子だったということ。今はそんな雰囲気が全くないので生徒達からその記憶は消えつつあるが、なぜか宗は今でもしっかり覚えている。