ソウルメイト -彼女のおまじないは悪!?-
「エモリエル、もうそのくらいにして……」
瑞穂が口を挟んだ。
「エモリエルには分からないかもしれないけど、俺達地球の人間にとっておまじないは心の支えなんだ。渡辺さんにとってもきっとそう……。それを止める権利、誰にもない。エモリエルにも」
「はい。それは深く理解しています」
ふうと息を吐き、エモリエルは苦笑いを浮かべた。
「地球人類によるおまじないの使用を軽視してきた組織の責任です。永愛さんに非はありません。それに、私が動いたところで現状が変化するとも思いません。私には、彼女の好きなものを取り上げる権利もありませんし、自国を救済する力もない。分かっているのです」
エモリエルの優しい言葉に、永愛はうつむかせていた顔を上げ尋ねた。
「だったらどうして…?」
「このまま私が何もせずにいることは簡単です。でも、その分代償がかかります。このまま永愛さんのおまじないを容認していたら、組織の人間が動きます。必ず」
瑞穂がエモリエルに詰め寄る。
「そんな……!このままじゃ渡辺さんの身が危険にさらされるってこと?エモリエル、何とか出来ないの?」
「幹部という役職を与えられてはいますが、組織の決定を覆すほどの権限はありません。自国の平穏のためだけでなく、永愛さんのためにも、私は彼女におまじないの使用をやめさせなくてはなりません」
「そんな……」
どんなに理解があっても、エモリエルはおまじないの使用を許可してくれない。永愛は絶望的な気持ちになった。
「ごめん、もう帰るね…!」
「渡辺さん…!」
瑞穂の呼びかけも無視し、永愛は走って公園を出て行った。
エモリエルと瑞穂は、やるせない面持ちで永愛の後ろ姿を見送った。
「もっと他に言い方なかったの…?」
「隠し通すわけにはいきません。親しくなりつつあるからこそ、彼女には本当のことを話しておくべきだと思いました」
「分かるけど……」
悔しげに両手を握る瑞穂に、エモリエルは訊(き)いた。
「瑞穂君は、ずいぶん永愛さんのことを気にかけているのですね」
「まあ、色々あってね」
「おや。興味があります。お聞かせ願えませんか?」
「……とりあえず帰ろ。ここ暑い」
「そうですね」
その後、瑞穂はエモリエルの自宅アパートに来た。ここなら気兼ねなく話せるし涼しい。
クーラーの快適な風が室内に満ちた頃、エモリエルは二人分のお茶を用意してリビングのソファーに座った。
「永愛さんに、私達がソウルメイトであることを話しそびれてしまいましたね」
「そんな空気じゃなかったでしょ?それに、今後俺達と話してくれるかどうかも分からないし」
「心配ですか?彼女のことが」
「当たり前だよ。クラスメイトだし」
瑞穂は頬杖をつき、憂いた目をする。
「渡辺さん、パステルの通販で売ってるキーホルダー大事に持ってたんだよ。それ知ってから、気になって……」
「パステルとは、瑞穂君が占い記事を掲載している雑誌でしたね」