ソウルメイト -彼女のおまじないは悪!?-
瑞穂は、永愛におまじないをやめさせたくなかった。なぜなら、彼女は自分が活躍している雑誌の読者で、グッズの購入者でもあるからだ。
「渡辺さんは、何度かパステル宛に俺へのファンレターを送ってくれたことがあるんだよ。彼女、本名で手紙くれたんだ、ずっと。渡辺さんの方は俺が占い師ってことを知らないけどね」
「瑞穂君……」
「昔から占いが好きだった。俺の趣味は男らしくないし、そういうこと気付かれたくなかったから学校では誰とも絡まないようにしてた。そういうのもあって男女関係なく深い付き合いは必要ないと思ってたんだけど……。中2で渡辺さんと同じクラスになって、自分で思う以上に嬉しかった。だから……」
「分かりましたよ。瑞穂君の気持ち」
エモリエルは微笑した。
「彼女の心の支えをおまじない以外のものに変えればいいのです」
「そんなこと、できるの?」
「長期戦になりますよ」
頼もしく笑い、エモリエルは今後の計画を話したのだった。
エモリエルや瑞穂から逃げるように帰宅した永愛は、自分の部屋に入るなり勢いよく本棚の前に立った。ここには、今まで集めたおまじないや占いの本がズラリと並んでいる。
小説やマンガもたまには読むが、部屋にいる時に読むのはたいていおまじないの本。
(本屋さんで初めておまじないの本を見つけた時、私は救われた。捨てるなんて……。絶対無理だよ)
最初は、慣れない土地で友達がほしくて始めたおまじない。それが効力を発揮したものだから、ますますその不思議な魅力にハマっていった。
一人では何もできない無力な自分。望みを叶える努力の方法も分からない。おまじないは、そんな自分に万能感を与えてくれる魔法のような存在となった。
生活の一部だったおまじないは、いつしか自分の大部分になっていた。
だからこそ、胸が痛い。時間が経つたび、エモリエルの言葉が頭に強く響いてくる。
『あなたの戯術は私の世界を崩壊させます』
そう言っていた彼の瞳は、悲しそうだった。
(エモリエル君は優しい人だし、本当はあんなこと言いたくなかっただろうな……。でも、自分の国のために仕方なかった。なのに、私は自分のことしか考えられなくてちゃんと最後まで話を聞けなかった。海堂君は私をかばってくれたけど……)
このままでいいのだろうか?
しばらく本棚の前で立ち尽くしていると、だんだん冷静さが戻ってくる。
エモリエルにおまじないの使用を禁止されたことはショックだったが、自分の故郷が崩壊するとなったら誰だって黙っていないだろう。
(エモリエル君の国を直接見たわけじゃないからいまいち実感ないけど、私のおまじないが、エモリエル君の星の人に危険を与えてる……)
それが本当なら、やっぱり今まで通りの生活はできない。とはいえ、おまじないを手放す勇気もない。