ソウルメイト -彼女のおまじないは悪!?-
薄暗い司令室の中。壁一面を覆うように取り付けられたモニターの大画面には、砂漠がひび割れる映像が映っていた。妙に現実的な青白い光が室内に満ちている。
白いあごひげを伸ばした初老の男は、普段着の白衣姿で腕組みをし、難しい顔でつぶやいた。
「……まただ。この星はどんどん壊れかけている。『たかが下等生物の“戯術(ぎじゅつ)”』と侮(あなど)っていたのが間違いだった。
やはり、A区画の生命体をこのまま野放しにしておくわけにはいかん。
先日の会議で決まった通り、今後A区画を厳重に監視し、この異常な環境破壊を阻止する必要がある」
初老男の後ろで同じく画面を見ていた軽装の若者は、それに同調した。
「そうですね。我々が何とかしなければ、この星が生命活動を維持できなくなるのも時間の問題です」
若者の名は、エモリエル・エスペラール。周囲の人々からはエモリエルと呼ばれている。
初老男はエモリエルに指示した。
「エモリエル。今日お前をここへ呼んだのは、他でもない。A区画に出向き、戯術を使う生命体に注意を促してほしい」
エメラルドグリーンの瞳をまっすぐ相手に向け、エモリエルは指示を聞いた。
「厳重注意で済めばいいが、それでも戯術の使用をやめないようなら、厳しい罰を与えてもよい」
「了解しました。全力でやらせていただきます」
スマートな仕草で礼をし、エモリエルは司令室を出た。
「エモリエル。頼む。もう、お前しか頼れる者がいないんだ」
初老男は、祈るような気持ちでエモリエルの背中を見送っていた。
研究所を出ると、目にかかるシルバーブロンドの前髪を首を振って払い、エモリエルは自分の家へ戻った。
(とうとうこの日が来たか……)
玄関で靴を脱ぐと、シャワーを浴びるため服を脱ぐ。
彼の背中には、その瞳の色と同じ、エメラルドグリーンのタトゥー。エメラルドという宝石を象った模様をしている。
この模様は、宇宙を見守り統括する組織の幹部を勤めている証だ。
ブラックホール統括(a black hole unification)、略してABU対策室(組織の通称)の幹部であるエモリエルは、ようやくこの日が来たと、胸の高鳴りを覚えていた。
エモリエルに指示を出した初老男は、ABU対策室の最高司令官で、全ての権限を握る人物・ジョセフである。