ソウルメイト -彼女のおまじないは悪!?-
夏休み中、自宅で仲よさげに話していた瑞穂といなみの姿を見て永愛はショックを受けたが、その必要はなかったということ。
小学4年の頃、瑞穂といなみの両親は離婚した。瑞穂は母親と元々住んでいた一軒家に残り、いなみは父親と他のアパートで暮らすことになった。
それまでは琴坂瑞穂という名前だったし、離婚して海堂瑞穂になってからも、瑞穂は、双子の妹いなみや父親と頻繁に会い仲良くしていた。
クラスも違うので学校ではそんなに関わらないが、休みの日、瑞穂といなみはしょっちゅう顔を合わせて近況報告し合っていた。
「いなみも俺も親の離婚で傷付いたし、不仲な両親を見て同じ環境で育ったから、価値観似てるとこも多くて。学校の誰よりも気が合った。でも、俺には、大切な人ができた。いなみにはちゃんと話しておきたかったんだ、永愛のこと」
花火大会の日、いなみと花火を見た後、瑞穂は永愛の元に駆けつけるつもりだったと話した。
「花火大会は、家族四人で行ったことのある唯一の行事だった。離婚後も、いなみと約束してたんだ。二人で毎年見に行こうって。永愛のこと話したら、最初はいなみも複雑そうな顔してたけど、最終的には喜んでくれたよ」
もっとも近しい関係だった身内が、他に大切な誰かを作って自分の元を離れていく。いなみのその寂しさは、体験した人にしか分からない。
よりどころだった兄が離れていくようで内心は複雑な心境だっただろうが、いなみはそういった感情を表に出すことなく、永愛とも普通に接した。
「占いとかおまじないとか好きな女っぽい趣味の兄だけど、これからもよろしくね。永愛」
サバサバと言い、いなみは先に校舎に入っていった。仕方ないこととはいえ、永愛は、後ろ髪を引かれるような思いだった。自分は一人っ子で、両親も仲が良いから。
「親が別れるつらさとか、キョウダイが恋愛する寂しさとか、私には分からない。でも、私は琴坂さんから大切なお兄ちゃんを奪った存在なんだと思う……」
かつて孤独だった永愛は、いなみの気持ちを自分なりに想像し、そう言うのがやっとだった。瑞穂はそれを否定した。
「奪うって言葉、愛には似合わない」
「え…?」
「キョウダイ愛も、恋愛の愛も、誰かが強引にどうこうできるものじゃない。だって、愛はここにあるものだから」
手のひらで胸を押さえ、瑞穂は言った。
「仲悪い父さんと母さんを見てたせいか、大人になるのは嫌だってずっと思ってた。でも、今は嫌じゃない。大人になるって、大切なものがひとつひとつ増えていくことを言うんだって分かったから」
「琴坂さんを想う気持ちと、恋愛?」
「そう」
キョウダイを愛する心と、一人の異性を愛する心。子供の時には分からなかった感情を、瑞穂と永愛は、これから知っていくことになるだろう。
校門前で立ち止まり、瑞穂は言った。
「でも、ホント、不思議なんだ。さっき永愛も言ってたけど、夏休み中、もう一人誰かがそばに居た気がする。それに……。もう一人の自分がこの中にいるみたいな気がして」
服をくしゃりと握るようにして胸を押さえた。瑞穂のその感覚は当たっていた。