王女・ヴェロニカ

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 ジャジータの町へは、思いのほかあっさり入ることができた。
 町の周辺を伺っていたノア王子の軍勢と、リーカ国軍と思われる一軍がよりによって町の入り口で衝突したため、町に逃げ込む人と、町から出る人でメインストリートが混乱状態にあったのだ。
 そのために、町の検問が機能していなかった。
 しかしよく訓練されたリーカ側と、粗暴なだけのノア王子軍では素人目にも勝敗は見えている。
 その先頭で指揮をとるのは白いセーラー服にスカイブルーの瞳の少年、その少年とハリーの眼が一瞬交わった。
 形の良い目を見開いた少年がこちらへこようとした。ハリーも近寄ろうとした。
 だが、逃げ惑う民に押されたハリーは、よろめいて小路に入ってしまった。
「さっきの男の子……!」
 きっとヴェロニカの文に度々出てくる、弟王子だろう。
 幼い王子が指揮をとる軍勢が本隊ということはないだろうから、本隊も近くにいるに違いない。
「ビアンカさま、すぐにお助けします!」
 王子の傍に潜んで本隊の到着を待つか、王子に話してみるか。
 迷っている間にも、フィオは馬を駆ってあちこち動き回る。その幼い顔に、疲労と緊張が張り付いている。
(……人か、物を探してるのかな……?)
 ここにビアンカがいることは彼らはまだ知らないはずだから、何かリーカ国側も想定外の事態になっているのだろう。

 しかし「王子」という肩書がついている人物でも、こうも違うものか、とハリーは思わずため息をついた。
 ろくに確認もせず人を浚ってくる王子と、自国のために必死に駆け回る幼い王子。どちらの下で働きたいか、問うまでもない。
「一日も早くビアンカさまを助け出して、ヒーリアさまをこちらへ呼ばなくては!」
 ハリーが情報屋へ視線を向けた時、背後に人の気配がした。
 慌てて振り返ると、傭兵が数名、ハリーを取り囲んでいた。
「ちょっと兄さん、うちの大将に何の用事だい?」
「さっきからずっとフィオさまをつけ回してるだろ」
「危害をくわえようかってんなら容赦しないよ。あたしらの大事な王子さまの初陣なんだからね」
 斧のような武器を突き付けられてハリーは慌てた。
「違います、違います! リーカ国の方にお願いしたいことがございます。王子殿下に話しかけるタイミングをはかっておりました」
 傭兵の一人が無言でハリーの体を点検した。
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