王女・ヴェロニカ
「ふーん、丸腰で華奢な優男、とりあえず俺らのテントに来てもらいましょうか」

 傭兵部隊を率いたフィオが、ジャジータの町に到着したのはこの日の朝だった。
 二日前に、マイクと一緒に斥候に出たきり戻ってこない姉・ヴェロニカを探すために、グーレースに頼んで先遣隊にしてもらったのだ。
「僕の初陣、ねえさまとマイクにいさまに見ていただきたかったのに、お二人を探すことになるなんて……」
 だが、町には二人が立ち寄った形跡がなかった。念のため途中の迂回路も人を派遣したが、二人は目撃されていなかった。
 町長やスラムの有力者、商人たちにも会ったが、誰も二人を見ていない。
 それよりも彼らは、町の周辺に展開しているノア王子軍と、町の東の平原に駐屯しているリーカ国軍を気にしていた。
「ジャジータはこのあたりでは一番大きな町ですが、軍勢がこんなに駐屯できるほどではないですぜ」
 スラムで情報屋を営んでいるという男は、
「ここに、エンリケが建てた離宮がある。表向き王族のための離宮ってはなしだがあれは要塞だな。エンリケ軍が常駐している。何か企んでいるに違いない」
 と、フィオに囁いた。
 フィオが素早く小銭を掴ませると、男はにやりと笑った。
「噂では……リーカとリッサンカルア、小国二つを手に入れて、両方の王になるつもりらしいぜ。王子さま、あんたが度々狙われるのも、エンリケ一派の仕業だ。こんなところを一人でフラフラしてちゃ危ないぞ」
「でも僕は、ねえさまを探さないと……」
「ああ、気の毒だが、ヴェロニカさまはこの町には来てないぜ」
「どうして?」
「ヴェロニカさまがここへ到着したと言う話は全く入っていない。それにあの王女がエンリケを放っておくはずないだろ? エンリケの方も、王女がジャジータ入りしたと知ったら、顔を合わせないよう移動したはずだ。エンリケが変わらずまだいるってことは……」
「情報屋さん、ねえさまやマイク、エンリケの情報が入ったら、僕たちに真っ先に教えてください。僕は傭兵部隊を率いているので、町の外で野営してます」
 フィオはポケットから財布を出して情報屋の前に置いた。
「ちょっとまて、王子さま、これはあんたの小遣いだろ?」
「はい。軍資金として渡されたお金は使ってしまいました。なのでもうこれで最後です。足らないと思いますけど受け取って下さい」
< 101 / 159 >

この作品をシェア

pagetop