王女・ヴェロニカ
「そういうのはダメだぜ。次からはもっと計画的に金を使うんだな」
 情報屋はフィオの上着のポケットに財布を戻した。
 どうして? とフィオが首を傾げた。
「あー、そうだな……。俺らはヴェロニカさまが大好きだ。マイクも良く知ってる。あの殺しても死にそうにない二人が消息を断ったとなると俺らとしても一大事だ。そんな大事な情報を持ってきてくれた礼だと思ってしまっとけ」
 ありがとうございます、と律儀に敬礼したフィオは、情報屋のテントを飛び出した。

 「もどりました」
 自分たちのテントに戻ったフィオを待っていたのは、町で見かけた金髪の青年だった。
「王子、この方が大事なお話があるとか」
「はじめまして、リーカ国第一王子のテオフィオです」
「僕はノア王子の後宮で働いていました。ハリーと申します。御縁があって、ビアンカさまのお世話をさせていただきました。そのビアンカさまが大変なのです。どうか、助けて下さい」
「僕たちは、ビアンカを助けるために国を出てきました。ビアンカはどこにいるのですか?」
「僕と一緒にこの町まで逃げてきたのですが、先回りしたノア王子に捕らわれてしまいました。今も、ノアまだ軍本隊のどこかに捕まっているはずです。お願いです、ビアンカさまを助けて下さい」
 傭兵の一人がさっと立ち上がった。
「王子、グーレースさんを呼んでくる。我々だけでどうにかできる話ではなさそうだからな」
「はい、お願いします」
 フィオは、目の前で真剣な顔をしている青年の顔を見て、確信していた。
(この人はきっとマイクにいさまの兄弟だ……)
 しかし、兄が海賊で弟は他国の後宮で働いていたなど、良い「過去」であるはずがない。
 だからフィオは聞きたいことを全部我慢した。
「……あの、王子殿下」
「はい?」
「お若い王子はご存じないかもしれませんが……貴国にマイクという青年がいたと聞いたのですが、健在でしょうか?」 
 知ってます! とフィオは立ち上がってハリーの手を握った。
「あなたはやっぱり、マイクにいさまのご兄弟ですね! マイクにいさまは今、ちょっと行方がわからないんですけど、ここまで一緒に行軍してきてます! 元気ですよ、とっても!」
「では……では、僕は兄の姿を見ることができますか……?」
 こっくり、とフィオが力強く頷いた。
「すぐに会えますよ!」
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