王女・ヴェロニカ

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 ノア王子の本営に連れていかれたビアンカは、そこにヒーリアがいることに驚いた。
 しかも、重たそうな錠前のついた頑丈な鉄の檻に入れられていて、両手は戒められている。
「ヒーリアさま! なんとひどい扱い……!」
「姫君、逃げ切れなかったか。野生の獣じみた王子ゆえ、鼻が利いたと見える。それにしてもなんたる無礼!」
 ノア王子、とヒーリアが鋭い声をあげた。すると、呑気に鼻歌を歌いながらノア王子が姿を現した。
 戦場だというのに鎧もつけず、呑気なものだ。
「お、ヒーリア、やっと頭を下げる気になったか?」
 誰が下げるものか、とヒーリアが吐き捨てた。ノア王子は、うわっはっは、と笑った後、檻を激しく蹴りつけた。ガタガタと檻が揺れる。
「どこまでも粗暴で野蛮な男よ……」
「ヒーリア、兵の前で辱められたいのか? お前の巨乳に興奮するものは多いから喜ばれるぞ」
 だがヒーリアは鼻先で笑い飛ばした。
「恥ずかしい思いをするのはわらわではない。そなたぞ」
「なに?」
「自分では立派だと思っているようだが、そなたの一物は貧相ぞ。そのうえ、いつまでたっても下手で痛いばかり。後宮での笑いものであるぞ。少しは研究いたせ」
 気の毒そうな視線が王子に突き刺さり、怒りで青黒くなった王子は、再び檻を蹴りつけた。
 だが、ヒーリアは毅然としたものだ。
「ついでのことゆえ、申し述べておく。他国の王族を縄で縛りあげ、拉致監禁するとは無礼にもほどがある。そもそもこれは何のための戦ぞ! 民の苦しみを何と心得る!」
「逃げるから仕方なく縛っただけ。父は土地が欲しいと言い、俺はコロンが欲しい。どちらもリーカ国のもの、だから戦をしかけて奪うのだ。文句あるか?」
「勝てると思っているのか、そなたは」
「当たり前だろう。我が国は最強の軍だぞ、戦は勝つと決まっている。もうすぐコロンは俺に屈服するぞ。セレスティナという美しい王妃は死んだそうな。見事な乳であったが惜しいことをした……」
 品のない手つきでセレスティナを悼む王子に殺意が湧いたのは、ビアンカだ。
「我が国に対する無礼な発言の数々、許しません」
 ビアンカは、いつの間にか短剣を手にしていた。
 ヴェロニカがいつも棍をスカートの下に隠しているのを思い出して、ハリーに借りた短剣を太ももに巻きつけておいたのだ。
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