王女・ヴェロニカ
 剣の使い方など、知らない。だがきっと、胴体に突き立てればいい。
 問題は縛られた手でどこまで出来るか……。
 ビアンカが走り出そうとしたとき、血相を変えた兵が本営に飛び込んできた。
「敵襲! 王子、リーカ国の敵襲です!」
 その叫んだ兵が、ばったり前に倒れた。その背には、矢が突き立っている。
「きゃっ……」
「どけっ、女!」
 ノア王子が剣を手にして応戦しようとしたとき、小柄な影が踊り込み、王子に殺到していた。
「イェンス・ノア・アシェール王子ですね? 大人しく投降してください。そうすれば命まではとりません」
「うっ……小僧……!」
 ノア王子は抵抗を試みた。だが、ここまで傭兵部隊と一緒に行軍して腕をあげているフィオの敵ではない。
 あっさりフィオの槍に剣を弾き飛ばされて、尻餅をついた。その喉元にぴたりと槍の穂先をあてて相手を目線で抑えるさまは、ヴェロニカそっくりだ。
 傭兵たちが本営にどっと入ってきて、手早くノア王子を戒めた。
「あんた、とんでもない馬鹿王子だな。うちの王子とえらい違いだ。とりあえずうちの本営まで来てもらうよ」
 連行されていくノア王子と入れ違いに、ハリーが本営に飛び込んできた。
「ビアンカさま、ご無事ですか! ああっ、ヒーリアさま、なんというお姿……!」
「ハリー。大丈夫だよ。僕、ちょっとした特技があるんです。ね、ビアンカ」
 ふふっ、と笑ったビアンカが、髪留めをひとつ、フィオに渡した。それを受け取ったフィオは、檻につけられた錠の前に座り込み、カチャカチャと弄った。
「ほほう、面白い王子じゃな」
 ごとん、と鍵が外れ、フィオが檻の中に入った。腰につけた短刀で縄を解いて、ヒーリアの手を取って外に出てきた。
「ヒーリアさま、僕はリーカ国のテオフィオです。国を代表してお礼を申し上げます」
「王子、礼を申すのはこちら……」
 いいえ、とフィオは満面の笑みでヒーリアをみた。
「ヒーリアさまのおかげで、ビアンカも無事でした。ハリーが無事だったのでマイクが喜びます。マイクが喜べば僕たちもみんな、うれしいんです」
「素直で可愛らしい王子じゃな。国の行く末が楽しみじゃ」
「ヒーリアさま、ハリー、ビアンカ、とりあえず僕たちの本陣へ戻りましょう。そろそろグーレースがおいついているはずです」
 一同が本営に戻ると、グーレースが待っていた。
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