王女・ヴェロニカ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「マイク、本当はマイケルって言うの?」
そうヴェロニカが聞いたのは、ビアンカ発案の「宴」の用意をしている時だった。
夕方の仕事が終わった後の町役場の一室を借り、食べ物はジャジータ名物「夕の市」で仕入れてきた。
料理の下準備をするのはマイク、ヴェロニカは酒樽の上に座ってチーズを食べている。
「ああ。マイケル・アインス・ブレータニアンが正式名だ。でもこの名前は捨てた。だから俺は、ただのマイクだ」
「……ねぇ、国を再建したいと思ってる?」
「いや、まったく思ってねぇ。窮屈な王宮暮らしより、きまま今の暮らしが性に合ってるみてぇだしな」
そっか、とヴェロニカが呟いた。
「あ、こらヴェロニカ、チーズ全部食べただろ! 買ってこい!」
「はーい……」
「金は、自腹な」
「え!?」
「当たり前だろ!」
そのやりとりを何気なくみていたハリーは、ぽんっ、と小さく手を打った。
(そういうことでしたか! でもどなたも気付いていらっしゃらないご様子……ここはひとつ僕が……!)