王女・ヴェロニカ
 
 それから間もなく、宴の用意が整ったとフィオが知らせて回った。
「なんと、この豪華なメンバーにわらわも混ぜていただけるのか」
 ヒーリアが言ったのも無理はない。
 まず、リーカ国の王女・ヴェロニカ、王子・フィオ。近衛長官のグーレース。そして王の側室・ビアンカが揃っている。
 そして旧ブレータニアン帝国のマイクとハリー、ふたりの王子。
「みろ、美青年が二人並んだぞ、目の保養になるな! 出来る事なら二人を裸に剥いて我が左右に……」
 鉄の檻に閉じ込められているとはいえ、王子がもう一人いる。
 立場を弁えない不適切発言が最後までなされないうちに、血相を変えたヒーリアが一同に頭を下げ、それとほぼ同時にヴェロニカの華麗な蹴り技が檻を直撃した。
 この王子、縄抜けならぬ「猿轡外し」の技に長けているようで、何度も猿轡を噛ませているのだがそのたびに器用に外して不適切発言を繰り返している。
「……ノア王子、黙らないとその分厚い唇を縫い合わせるわよ」
「野蛮な女、俺の視界に入るな。目が腐る」
 体に巻きつけていた赤い布を外したヒーリアが、ノア王子の檻に素早く被せた。
「ああっ。ヒーリア、何をするか! 見えないではないか!」
「見なくてよい! いや、見るな、聞くな、喋るな!」
「……わかったぞ、ヒーリア。俺の心が他の男へ向かったから嫉妬しているのだろう? そうだろう? はっはっは、可愛いところがあるな!」
 気の毒な人を見る目が、檻に突き刺さる。さすがにヒーリアはいたたまれなくなった。
「我が国の王子がまことに阿呆……いや、馬鹿、いやそのなんというか……申し訳ございません」
「ヒーリアさま、我がリーカ国では堅苦しい作法はありません。気軽にお楽しみくだされ」
 グーレースがヒーリアの前で近衛隊式の礼をし、ヒーリアの手を取って宴席の方へ誘った。
 自然とハリーがそれに従おうとしたが、ビアンカがハリーの腕を捕まえた。
「あなたはこっちよ」
「え?」
「ヒーリアさま、ハリーを暫しお借りいたしますわ」
「構わぬ。ハリー、同世代の友人は初めてじゃな」
「はい」
「今だけでも、仲良くしていただくと良いぞ」
 右手でハリーを捕まえたビアンカは、左手でマイクを捕まえた。
「マイク、ヴェロニカさまのことはフィオさまとわたくしにお任せ下さい。今宵は兄弟水入らずで、ね?」
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