王女・ヴェロニカ
 二人を交互に見たビアンカが、二人の前で深々と頭を下げた。
 その意味を、兄弟は正確に読み取った。
 彼女は、知っているのだ。かつて自分の親が何をしたのか。
 ビアンカが何か言おうとしたとき、ガタガタと檻を揺する音とヴェロニカが吠える声が聞こえた。
 ノア王子がヴェロニカを怒らせるようなことを言ったのだろう。フィオが必死に宥めているが、ヴェロニカはとうとう棍を引き抜いた。
「まあ、ヴェロニカさま、捕虜を殺してはいけませんわ! 本当に野蛮な王女になってしまいますわ。マイク、ハリー、ちょっと失礼しますわね」
 
 「兄上、リーカ国とは良い国なのでしょうね」
 にこにこと、ハリーが言う。兄弟で並んで食事をするのは、本当に久しぶりだ。
「……ああ。良いところだぜ。居心地がいいからな、一度腰を落ち着けるとなかなか動く気になれねぇ」
「僕は、ビアンカさまを恨む気持ちにはなれませんでした。父上と母上は怒るでしょうか?」
「怒らないさ。親父もお袋も、争い事が何より嫌いだった。俺たちがビアンカをどうこうしたらそれこそ怒られるぞ」
 兄弟でつもる話もあるだろうと、誰もがマイクとハリーをそっとしておいた。
 だが、彼らはそれぞれの「場所」へ早々に戻ってしまった。 
 グーレースと飲んでいたヒーリアが酔いつぶれて泣き始め、フィオとビアンカ相手に飲んでいたヴェロニカは、何やら喚いて暴れている。
「ヒーリアさま、少しお水をどうぞ……」
「おいおいヴェロニカ、落ち着けよ、どうした?」
「まいくぅ……ここに座りなさーい……」
「はいはい」
 ぴたっ、とヴェロニカがマイクに抱き着いた。
 マイクはそれを振り払うでも怒るでもなく、そのまま放っている。
「……ビアンカさま、フィオさま。やっぱり兄上とヴェロニカさまは恋仲だったんですね」
「ええっ!?」
「気付かなかったわ……」
 いやでもまさか、とリーカ国の一同が凝視する中で、ヴェロニカが棍を引き抜いて振り回し始めた。
「まいく、成敗ー」
「おう、酔っ払いの棍なんか痛くも痒くも……いってえっ! この狂暴女、怪力女!」
「なんとれもいへー! いくほー……へいっ……」
「ぐはっ、いてぇ!」
 ロマンのかけらもないように見えるが、ハリーは自信満々だ。
「少なくとも兄上はヴェロニカさまに惚れてますよ」
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