王女・ヴェロニカ
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翌朝、陽が上った時はいつもの「ヴェロニカ軍」が戻っていた。
本営の前ではヴェロニカが腕組みをして仁王立ち、グーレースたちと各隊の隊長を集めて会議中であるらしい。
鋭い掛け声と活発な議論に、ヒーリアとハリーも目を覚ました。
「ハリー……リーカ国の人は元気であるな。明け方まで騒いでいたのに……。それともわらわが不健康なのであろうか……?」
「……いえ、我々は普通だと思います……」
あくびをかみ殺したハリーの視線は、部屋の隅に置かれた檻へ向けられた。
立派ないびきが聞こえてくる。よくもあの狭さで寝られるものだ。
「ヒーリアさま、朝食を調達して参ります」
「いや、良い。ヴェロニカさまを見習って、わらわも自分で動こう」
簡単に身だしなみを整えたヒーリアは、テントの外へ出て大きく伸びをした。
「ああ、外とはかように気分の良いものであったか」
その姿を見つけたヴェロニカが、元気よく走ってきた。
「おはようございます、ヒーリアさま。どうですか、ご気分は」
「このようにさわやかな目覚めは久しぶりのこと」
「もしよかったら、一緒に朝市を見に行きませんか? そこで美味しいもの、買っちゃいましょう」
ヴェロニカが、そっとスカートの陰から取り出したのは、男物の財布だ。
「王女、それはもしや……」
「へへへ……グーレースの財布です。くすねてきました。さ、参りましょう!」
先頭を歩くヴェロニカは元気いっぱいだ。誰とでも笑顔で会話する。
「ヒーリアさま、お店の人たちは、相手が王女だと解っているのでしょうか?」
「解っているのであろうな。王女が戦に出た事情も知っている。不思議な王女よ……」
パン屋で籠いっぱいに焼きたてパンを買い、八百屋で新鮮なフルーツを買う。
「ヒーリアさま、食べたいものはありましたか?」
「あっ、これじゃ、これが食べたい……!」
「この揚げパンですか?」
「そうじゃ。これは……わらわの故郷の菓子に良く似ているが……」
会話を聞いていた店主が、にこっ、と笑った。
「地元では、これに木の実をたくさん入れるんだよ。でもここの国の人達は、これにジャムを付けて食べるから、わざと木の実は抜いてある。ほら、木の実入りはこっちだ」
ぽん、と手渡されたごつごつした揚げパンを、ヒーリアが嬉しそうに見つめた。
「ああ、懐かしい……この匂い……」