王女・ヴェロニカ
「ヴェロニカさまのお友達かい? だったらそれはプレゼントだ。木の実入りの美味しさを広めてくれるとありがたい」
 承知した、とヒーリアが大きく頷いて笑った。
 それぞれが両手いっぱいに食材を抱えて本営に戻ると、ビアンカが慌てた顔をしていた。
「ヴェロニカさまっ!」
「ん? おはよ。慌ててどうしたの?」
「マイクがどこにもいません!」
「ああ、昨日の夜、なんか情報を貰うには作法があるとか言って出て行ったよ」
 ビアンカがちょっとがっかりした顔をした。
「ヴェロニカさまと朝までご一緒、あわよくば……と思いましたのに……」
 首を傾げるヴェロニカの後ろで、ハリーとヒーリアが「無理でしょう」と呟いたがヴェロニカは全く分かっていない。
「よし、みんな揃ったから、グーレース、軍議をはじめるわよっ!」

 ばさりと広げられた大きな地図には、近隣の情報が随分書き込まれている。
 町の人とおしゃべりしながら集めたもの、情報屋に聞いて集めたもの、いろんな情報を足したのだ。
 ふと、ヴェロニカの視線が、一か所にとまった。
「……ヴェロニカさま、なりません」
「まっ、まだ何も言ってないじゃない!」
「いいえ。『オオスナグマの巣』で目線が止まったのを、このグーレースがわからぬとお思いですか」
「……通りがかりに見つけたら、絶対倒すからね! それ邪魔したら怒るわよ!」
 にやり、とグーレースが笑った。
「高貴な身分のお客様が増えましたので、今回は川を使って一気に城まで帰りたいと思います」
「川?」
「はい。この町には隠し水路がありました。町のすぐそばを細い川が流れていますが、この川は幅の割に深く流れが速いとか。地元の民はこの川を使って荷を運んだり隣の町へいったりするそうです」
「良く調べたわね」
「ビアンカさまが隠し水路があるという噂を知っておりました。それをもとに、まぁ、その……町長と親睦を深めましてな……」
「ふふっ、グーレース長官の裸踊り、ヴェロニカさまにお目にかけたかったわ……」
 ビアンカさま、とグーレースが抗議の声をあげ、ビアンカはクスクス笑いながら全員のカップにコーヒーを注いでまわった。
「ねぇ、グーレース、一気にお城まで帰るの? 『白い亡霊』のことを探りたいんだけど」
 ピッカ一団のアジトで手に入れた薬物は、マイクが隠し持っている。
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