王女・ヴェロニカ
 そして、アジトから逃げて来るときに一人の男を密かに連れてきている。あの、リッサンカルア出身という男だ。
 彼の身柄は、この町のマイクの仲間に預けてある。
「それはマイクが戻ってきてから検討いたしましょう。ですが、今はまだ深入りせぬ方が良いかと……」
 薬物の成分分析と、男の吟味、かつて捕えた刺客にもう一度話を聞く、それからでも良いだろう。
「……そうね。今回の行軍の目的は、ビアンカ救出だものね」
 その目的が果たされたら速やかに帰還しなければいけない。
「さて、陸路を行くと遠いティーラカの町ですが、水路だとすぐ隣になります。ティーラカの町から首都までは数日の距離、いかがですかな?」
 隊長たちが地図を見ながらいろいろと質問を繰り返すが、大きな反対もない。
「では先遣隊の出発は明日の昼。我ら本隊は大型船が手配出来次第ということで」
 フィオとヴェロニカが先遣隊に立候補したが、あっさり却下されてしまった。
「お二人は、ヒーリアさまやノア王子、ビアンカさまと一緒に本隊に入っていただきます。それからヴェロニカさま」
「はい?」
「愛用のドレス、特殊加工を施されたドレスということは百も承知ですが、良いドレスに着替えて、もう少し王女らしく取り繕っていただきたい」
 ええーっ、とヴェロニカが叫び、ビアンカとヒーリアがすっと立ち上がった。
「さあ、ヴェロニカさま、ドレスを買いに参りますわよ」
「動きやすくて華やかに見えるもの……ちと難しいが、これほどの美形ゆえ磨き甲斐があるというもの。我らに任されよ、グーレースどの」
 お願いいたします、とグーレースが朗らかに言った。
 
 そのころ、マイクは久しぶりに自分のアジトへ戻ってきていた。
「ただいまー」
「お頭、おかえりなさい!」
「なんだかすっかり小奇麗になっちまいましたな。そのまま王宮に戻ってはどうです?」
 仲間たちに手荒く歓迎されたマイクに、背の高い男が近寄ってきた。ジャジータの町で「情報屋」を営んでいる男だ。
「お頭、情報集めておきました」
「お、気が利くな……」
「エンリケ軍が気に入らねぇんで、ちょっと……。そしたら案の定って感じで……まぁ読んでください」
 小さく折りたたまれた羊皮紙には、箇条書きで情報がびっしり書いてある。
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