王女・ヴェロニカ

:3:

 一同が乗れる大型船を手配するのは思いのほか難しかった。
「ここもだめ、か……」
「難航することは予想しておりましたが……ここまでとは……」
 何件目かの船宿を出て、グーレースとヴェロニカの口から零れるのはため息や嘆きばかりだ。
 どこの船宿も、中型船・大型船は扱っていなかった。民の足となるのは小型船ばかり、荷物を運ぶ時も、小型船を紐で結わえて連結させて運ぶらしい。
 船室や船倉がついたものとなると、動物たちを運ぶための特殊なもので、とても人が乗れるようなものではない。
「ノア王子だけならそれで運ぶんだけどねぇ……」
「ヴェロニカさま、それはあんまりです……」
「民を守るのも王族の務めよ! まったくあの外道変態王子め、檻の中からでも事に及ぼうとするとは思わなかったわ!」
 たしかに、とグーレースも思わず苦笑した。

 それはつい先ほどの出来事だった。
 王子の檻をちょっと本営の外に出したのは、日に当たりたいだろうと思ったヴェロニカのささやかな心遣いだった。
 だがすぐに、女の子の悲鳴がし、続いて男の子の悲鳴が上がった。
 何事かとすっとんでいくと、白昼堂々往来で、王子が破廉恥な行為を行おうとしていた。
「我が国の恥さらし王子めっ!」
 怒り狂ったヒーリアが、去勢してやると叫んで短剣を持ち出し、ハリーが身を挺して王子をかばった。
 しかし最も信頼していたハリーが王子を守ったことに憤慨したヒーリアは、ハリーを遠ざけてしまった。
 わらわに近寄るな、と言われたハリーは気の毒なほどしょんぼりしてしまい、ビアンカが気分転換に買い出しに誘った。
「ほう、これは初々しいカップルの誕生じゃな……」
 くすっ、とヒーリアが笑った。
「……ヒーリアさま、ハリーは独身ですよね?」
「うむ」
「わたし、国に帰ったらビアンカとハリーが一緒になれるよう、父に働きかけてみたいのですがよろしいでしょうか?」
「なんと申される……?」
「ビアンカだって、六十近いジジイの側室でいるより、ハリーと一緒になったほうが幸せだと思うのです」
 へぇ、とヒーリアが興味深そうな目でヴェロニカを見た。
「わたしは……オオスナグマを一人で倒せたときが何よりも幸せですけど、ビアンカはそんなことで幸せは感じないと思うのです」
< 115 / 159 >

この作品をシェア

pagetop