王女・ヴェロニカ
「おめぇら、何やって……わーっ! ヴェロニカ! 馬鹿ヴェロニカ、引け、棍をしまえーっ! 下がれ!」
 血相をかえたマイクがヴェロニカに飛びつき、床に引き倒した。それでも暴れるヴェロニカを、どうにか落ち着かせると、ザッと仲間たちが引いていく。
「お前、こんなところでなにやってんだ! ったく王女様が単独行動かよ。治安のいい街とは言えねぇんだぞ」
「王女だとばれないように、黒い服に着替えた」
「そういう問題じゃねぇよ……」
「わたしの剣術の腕前は相当だ。そこらの男には負けない」
「どうだかな。現に俺の仲間に囲まれて……」
 ヴェロニカが、むっとした。徐に手を伸ばしてマイクの襟をしめ、くるりと体勢を入れ替えた。
「げぇぇぇ、首が締まる……」
「……どう? 寝技も関節技も、いくつも身につけてるわよ。味わいたい?」
 わかったわかった、とマイクがヴェロニカの下から這い出した。
 この時点で仲間たちはあっけにとられている。
「ヴェロニカ……本気で俺を絞めただろ……」
「あら、わたしがマイクを殺すわけないでしょう。マイク、会いたかったわよ。さあ、わたしについて来て。離宮に出入りする怪しい商人を見つけたの。お頭を用心棒にちょっと借りるわね」
「ちょっとまて、俺はまだ行くとは——」
「ではみなさま、ごきげんよう、おほほほほ!」
 カランカラン——とドアベルの音が響き、後に残された手下たちは、乱れたテーブルを片付け始めた。
(何だったんだ……あの女……?)
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