王女・ヴェロニカ
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ヴェロニカに導かれるまま、ジャジータの町の裏路地を走る。人相の悪い男たちがそこかしこに転がっている。
(俺が町を離れたのはわずかだぞ、その間に薬物が蔓延してやがる……)
「ここよ……。酒場らしいけど、普通の酒場とは思えないの」
安っぽい木の扉をあけると、地下へ降りる階段がある。階下から流れてくる空気が淀んでいるのがマイクにはわかる。
「ヴェロニカ、気を付けろよ……何が出るかわからねぇ……」
「うん……」
扉が閉まってしまわないように石を挟んだマイクは、ヴェロニカに階段を下りて行くよう促した。
マイクの手が剣の柄にかかっていることを見たヴェロニカも、棍を構える。
階段を降り切った先には、重たそうな木の扉がある。
ヴェロニカが取っ手に手をかけると同時に、ドアが中から開かれた。突き出されたのはナイフだ。
「おっと、あぶねぇ」
だが、同時にマイクがヴェロニカの腕を引いて自分の体の後ろへ回して、庇っている。
「おっさん、この酒場はいきなり客にナイフを突きつけるのか? 作法がなってねぇな……」
マイクが、いつもの人懐っこい笑顔を引っ込めて、険しい顔つきで周囲を睨む。店の中は暗く、客が何人かいる。
ヴェロニカの眼には誰も見えないが、マイクには見えているらしい。マイクの視線の方向の暗がりから、しゃがれた男の声がした。
「……客だと?」
「ああ。俺になかなか挨拶にこねぇからこっちから来てやったんだ」
「若造、おめぇ、誰だ……?」
「この町で俺を知らねぇとは言わせねぇぞ……こら……」
ランタンの光がマイクに差し出された。
赤い髪を逆立て、ジャケットを着崩し、パンツのポケットに手を突っ込んで前を睨み据える青年は、いつものマイクではない。
(わぁお! ……海賊のマイクだ……!)
「店長! この男……海賊の頭……!」
「マイクか!?」
「この俺を呼び捨てにするか。いい度胸だぜ。知ってるか? この町は薬物はご法度なんだぜ。それを蔓延らせて……どうやって責任とるつもりだよ」
店長らしき男が、無言のまま顎をしゃくった。
ゆらり、と武器を手にした男たちが立ち上がる。
ヴェロニカが一歩踏み出そうとしたが、マイクが不敵に笑った。
「お前が出るまでもねぇ……。ここは師匠の俺に任せとけ」