王女・ヴェロニカ
革命に非ず!
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 エンリケは、ひどくイライラしていた。
 ジャジータの町に建設した離宮にこもって挙兵準備をおし進めているのだが、我慢の限界なのだ。 

 ここは、『王のための離宮』と謳ってはあるが、もちろん、エンリケ一族のための建物だ。
 それも、バカンスを楽しむためではなく、金儲けと軍事施設を兼ねたものに後から改築した。
 改築に関わった者をたちを殺して回るのは少しばかり大変だったが、途中から弟のヴェールが手伝ったので楽になった。
(しかしアレは……少し知恵が足りないのが難点だな……)
 エンリケは眉間をおさえた。弟が力になってくれるのはうれしいのだが、どうも頼りない。
 なにせヴェールは——信じがたいことに——あの狂暴な王女・ヴェロニカに強烈に魅せられてしまったらしい。
「兄上が実権を握られたら、真っ先にヴェロニカを私の嫁に下さい」
 本気でそう言ってきたときは眩暈がした。
 たしかにヴェロニカは美形であるし、鍛えられた良い体をしている。
 だが、あの性分だ。抱きたいと思う奴の神経が解らないし、嫁になど以ての外だ。現に、王はヴェロニカの婿さがしで頭を悩ませている。
 だが日々妄想して、夜這いまでしたというのだから、弟は本気なのだろう。夜這いの結果は聞かなかった。弟の顔には痣があり、体も所々が痛むようだったからだ。
「兄上、ますますヴェロニカが欲しくなりました。一刻も早く王を倒しましょう。その為ならなんだってします」

 弟が味方に付いてから、計画は一気に動き出した。
 まず、ヴェールは、この組織に資金と兵力がないことに目を付けた。
 そして、とんでもないことを言ってのけた。麻薬組織を作ると言い出したのだ。
「どうせ『白い亡霊』には上質な麻薬が大量に必要です。それを安定供給してくれる組織を作ってしまえば良いのです」
「厄介な代物を抱えるのは嫌だぞ」
「厄介などではありません。そのまま売買し続ければ大金を稼げます。今後も何かと金は必要ですから」
 煮え切らない兄そっちのけで弟はジャジータのスラム街で破落戸《ごろつき》どもをかきあつめて、砂漠の片隅で薬草を栽培・精製することにした。
 だが、それがいつの間にか、ピッカ一団のアジトとして使われていた時は心底驚いた。
 挙句、ピッカ一団はその薬草を勝手に売りさばいて大儲けしていたのだから、並みのくやしさではない。
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