王女・ヴェロニカ
(どうだ、この計画は完璧だ……! これでまた王者に一歩近づいた……。これは私欲などではなく、ご先祖様の無念を晴らす革命なのだ……!)

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 その日は、夕方の軍議に少し異変があった。なんとヴェロニカが無断で欠席したのだ。
「ヴェロニカさま、一体どうなさったのかしら?」
 心配になったビアンカが本営の中をウロウロしていると、額に脂汗を浮かべたマイクが布で仕切られた個室の入り口から顔を出してビアンカを呼んだ。
「マイク、寝ていなくて大丈夫なの?」 
「や、それが……寝るに寝られないというか……」
 歯切れの悪いマイクに促されてベッドを覗くと、ワインレッドがベッドの半分を独占している。
「まあ! ヴェロニカさま!」
「俺が目を覚ましたら、ヴェロニカが横で寝てた。もう、眠気がぶっ飛んだぜ……」
「そうだわ、いい機会だからヴェロニカさまの傷の手当てをしてしまいましょう」
 ちっとも大人しくしていないから、薬剤を張り付けた布が交換できずにいたのだ。
「こんな傷跡が残っちまったら可哀想だよな……せっかく綺麗な顔なのになぁ……ヴェロニカ?」
 マイクがヴェロニカの頬の傷や唇にそっと触れた。それでも起きないヴェロニカを見つめるマイクは、どうやら満足しきっているらしい。
 それを見ているビアンカは、うずうずしてきた。
「マイク!」
「あん?」
「そんなにヴェロニカさまが好きなら、結婚しちゃいなさい!」
 マイクが真っ赤になって絶句した瞬間、ヴェロニカががばっと起き上がった。
「……敵襲! 囲まれてる!」
 引き締まった顔で立ち上がったマイクは、部屋の隅に置いてある自身の剣をとり、ヴェロニカの棍も投げた。
 蒼ざめたビアンカだが、「待って……」と呟くと部屋を飛び出した。
「くそっ、こんな敵意に気付かないとは……悪ぃ、ヴェロニカ」
「ううん……でも敵の心当たりがないんだけど……」
 ヴェロニカのサーモンピンクのドレスを抱えて戻って来たビアンカの顔は、さっきよりずっと蒼ざめていた。
「ヴェロニカさま、お召し替えを」
「ありがとう。マイク、町の外に展開しているフィオ軍とグーレース隊に伝令を!」
「おう」
 出て行こうとしたマイクの腕を、ビアンカが咄嗟に掴んだ。
「ビアンカ、どうしたの?」
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