王女・ヴェロニカ
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 ヴェロニカが外に飛び出した時、物騒な連中がひたひたと押し寄せていた。ご丁寧に大隊長以上のリーダーはみんなピエロの仮面をつけている。
 ぐるっと見回したヴェロニカの眉が寄せられた。
「マイク、聞いて」
「ん?」
「あの一角は禁軍よ。あの伍長たちには見覚えがあるの。王の命令がないのにエンリケに従って出陣していくのを見たわ。それからあっちは近衛隊。ヒゲの伍長と大男の小隊長が居るから近衛隊第二師団の一部よ。わたしにはわかるわ。でもね……」
 ヴェロニカに指を指された一角が動揺した。動揺は静かに兵の間に広まっていく。そして何人かは武器を下ろしてしまった。
「でも……正面と真後ろに陣取った人達は違う。リーカ国の装備を身につけているけど……違う。知らない人たちね」
 厳しく訓練された「どこかの正規の兵」の動きではない。
 かといって、独自の指揮系統で動く傭兵たちでもない。
 その一角から、ゆらり、ゆらり、と兵士が数人出てきた。いずれも顔色が悪く、頬はこけて目が虚ろ、後宮に出た例の刺客と同じだ。
「……エンリケさまのため……エンリケさま……万歳」
「我らのビアンカさまに王妃の冠を……」
「エンリケさま……我らの王……」
 ヴェロニカとマイクが彼らを迎え討とうと身構えて踏み込んだ瞬間、その兵士たちはバタバタと倒れた。
 背後からバッサリ斬られている。
「え?」
「お、なんだ? 仲間割れか?」
 驚くヴェロニカたちの目の前で、一人がピエロの仮面を投げ捨てて前に出てきた。
 姿を現したのは見覚えのある大男、部下をぞろぞろと引き連れている。
「……久しぶりだな、海賊の坊やと、凶暴なねーちゃん」
 小さく息を呑んだヴェロニカが、無意識だろう、一歩後ずさり、ちっ、と吐き捨てたマイクが投げやりに「どーも」と応じて前に出た。
「この前はよくも俺らのアジトを無茶苦茶にしてくれたな。忘れてやろうかとも思ったんだがな、エンリケさまに臨時招集をかけられて出てきた町にお前らがいた。こりゃ復讐する絶好のチャンスだ」
 ニヤニヤと配下の男たちが嫌な笑いを浮かべて、マイクとヴェロニカを交互に見る。
 余程この連中が嫌なのだろう、さらにヴェロニカが後退した。
「安心しな、兄さん。あんたは殺したりしないさ。勿体ねぇからな……。だがこっちの女は……殺す!」
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