王女・ヴェロニカ
 ヴェロニカめがけて短剣が繰り出されるが、もちろんマイクに阻まれる。
「邪魔するな!」
「おい、身を以て学習しただろ、もう忘れたのか? ヴェロニカは滅茶苦茶強ぇ。殺す前に殺されるぞ?」
 マイクに腕を捻りあげられて情けない声をあげる男の喉笛を、感情のない目で見降ろしたお頭が無造作にかき切った。
「ったく……エンリケの野郎が配る薬物は性質がわりぃな。こいつらはただでさえ獰猛な馬鹿どもだが、それに拍車がかかりやがる」
 血脂を部下だった男の服で拭って、お頭はマイクとヴェロニカを交互に見た。
「どうやってお前らを襲撃しようか考えてたら、不気味なことにこいつらが一斉に行動し始めた。俺らはそれに便乗しただけよ」
「あん? エンリケの命令で囲んだんじゃねぇのか?」
「エンリケさまは今頃、あの御殿で面喰ってるだろうぜ。なにせ命令してねぇのに自分の軍が王女サマの軍を襲ってるんだからな……」
 カッカッカ、と豪快に笑ったお頭の言葉に、ヴェロニカとマイクは正直安堵した。きっとビアンカも胸をなでおろしているだろう。
「マイク……エンリケが関係ないってことは、単なる賊とみなして、徹底的にやっちゃってもいいのよね?」
「あ、まぁ、そうなるか……な……?」
 そんなことにはお構いなしのお頭は、ぐるっと周囲の兵を見渡して首を傾げた。
「けど……人形みてぇで薄気味悪ぃぜ。俺の言うことなんか何も聞きゃしねぇが、エンリケ兄弟には絶対服従だ。普通の薬物じゃこうはならねぇ……。ったく恐ろしい男だぜ、エンリケってのは」
 その点は同感であるが、それを示す間もなく周囲の兵が動き始めた。虚ろな眼差しで、思い思いに剣を振り回す。
 それに触発されたのか、ピッカ一団も攻撃に出る。
「びあんかさまぁ……」
「ヴェロニカさまを倒せ……」
「打倒、王女……」
 お頭が苛立ったように何か喚くが、兵たちは全くいうことを聞かない。
「あー、ヴェロニカ、下がってろ、お前とビアンカがターゲットっぽいぞ」
「マイク、ピッカ一団に捕まらないでね。今度あんなことがあったら、わたし、奴らを皆殺しにしちゃうかもしれない」
「ま、まて、だからお前は下がって……」
 マイクの言葉が終わらないうちに、隣にあったサーモンピンクは高速で移動していた。
 ヴェロニカが通過した後は、兵が見事になぎ倒されている。流石に、殺してはいないようだ。
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