王女・ヴェロニカ

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 そして、仲良く談笑する三人の姿を、遠くから見る目がある。
 いつも自分たちを守ってくれている目とは違う。悪意と殺気が込められた視線が注がれている。
(……木の陰に二人、あっちの陰に二人……。わたし一人なら叩きのめしてやるのに!)
 楽しそうな二人の安全を真っ先に確保し、なおかつティータイムを邪魔せず確実に敵を排除する方法を必死で考えるが名案が思い浮かばない。
「ヴェロニカさま、眉間に皺が……。どうかなさったの?」
「……え、ちょっとクッキーを頂きすぎたの!」
 苦しい言い訳をして無理やり笑顔を作ってみたが、通用するはずがない。
「ヴェロニカ、どうしたのです? 言ってごらんなさい」
「では言います。殺気を感じました」
「あなたがそう言うのなら、そうなのでしょう。わたくしたちに何かあっては王や皆の手を煩わせてしまいますから、お部屋に戻りましょう」
 蒼ざめたビアンカが片付けを始め、侍女二人が手伝うために近寄ってくる。だがその二人ともが、ヴェロニカの記憶にない少女たちだった。
 セレスティナとビアンカも同様だったらしい。
 ビアンカが、すっと一歩前へ出た。慌てたヴェロニカがビアンカの袖を引いて、侍女たちと十分な間合いを確保する。
「はじめてみかける顔ですね。こちらがどなたかわかっていて、面をあげているのですか?」
「あっ、あの……あたしたち、ラロさまに雇われました。本日付で、ビアンカさま付きになりました」
「お父様が……? どこで雇われたの?」
「リッサンカルアの町です」
 なぜ、と唇が動き、ビアンカの形の良い眉が寄せられた。
「それにあなたたち、本当にリッサンカルア人なの?」
 ビアンカが尋ねたのも無理はない。二人とも、濃淡の差はあるが金髪で、青い目をしている。リッサンカルアでは珍しい容姿だ。
 しかしヴェロニカは、二人の少女がきちんと揃えている手と、足の運び方を見ていた。
(あれは剣だこ……重心が均等に移動……父親が、娘の護衛として送り込んできた剣士でしょうね……)
「ビアンカ、ヴェロニカ、侍女をそんなに睨みつけてはいけませんよ」
「セレスティナさま! しかし、父は……」
「娘を心配しない父親はいないと思いますよ。さぁ、一刻も早く、引きあげましょう。さあ、バスケットを片付けてくださいな」
 はい、と二人の侍女の声が重なり、無駄のない動きで片づけていく。
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