王女・ヴェロニカ
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 その後、町の外から駆けつけてきたグーレース隊とフィオ率いる傭兵部隊の参戦で、ピッカ一団と、エンリケ軍は始末された。
 ピッカ一団はジャジータの町の役人に引き渡し、正規のリーカ兵は——いずれも薬物漬けだ——傭兵部隊が城まで陸路を護送していくことになった。
「グーレース、お頭の姿、あった?」
「いえ、サブリーダー格は死んでおりましたが……」
 捕えた敵兵の中に、ピッカ一団のお頭の姿はなかった。
「逃げおおせたのかしらね……」
「いろいろ聞きたいことがあったのだがな……」
 グーレースが忌々しげにつぶやいて、離宮の方を眺めた。
 離宮は、何も知らぬげにひっそりと静まり返っている。
(エンリケの腸《はらわた》は煮えくり返っているだろうに……)
 エンリケ軍の戦力はこれで幾らかは削ぐことができただろうが、減った兵ははまた『白い亡霊』を使ってかき集めるのだろう。
 そんなことは、何としてもやめさせなければならない。

 「では準備が整い次第、僕たち傭兵部隊はジャジータを出発します」
「うん、気を付けて帰るのよ。父様によろしくね。わたしたちもすぐに出発することになると思うけど……」
「はい」
「あ、フィオ、オオスナグマが出たら、無理せず迂回するのよ」
「……オオスナグマが出て大喜びで突っ込んでいくのは、ねえさまと、マイクにいさまくらいです……」
 ヴェロニカの傍で笑うフィオは、この行軍で日に焼けて少し背も伸びた。
「フィオ、ちょっと逞しくなったわね」
「まだまだ、勇猛果敢なねえさまには敵いません」
 頑張らなくちゃ、と笑う弟王子の頭を、ヴェロニカはくしゃくしゃと撫でた。

 その後諸々の『戦後処理』を終えて、それぞれが部屋に引き上げたのは、空が白み始めていた。
 横になって、どのくらい経っただろうか。
 人の気配を察したマイクは、意識だけを覚醒させて周囲の気配を探った。
(男……が、一人……入り口にいる……)
 特に敵意は感じられない。だが、本当に腕の立つ刺客というものは、殺気など放たないものだ。
 だからマイクは、毛布の下からそっと手を伸ばしてベッドのすぐそばに立てかけてある剣を掴んだ。
 正直、毒によるダメージは回復しきっていないため、クタクタで体は重たい。
(何もせず出て行ってくれないかな……)
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