王女・ヴェロニカ
 だがマイクの願いもむなしく、部屋に忍び込んだ曲者は、そのまま、のしっ、とベッドに上がってきた。
(格闘術の達人か……)
 ならば枕の下に忍ばせてある短剣で応じたほうが良いだろうか……マイクがそう思った時。
「ぬふふ……」
(……はぃ?)
 牛の如く荒い鼻息が、頬にかかった。そのまま間をおかず、生暖かいものが頬をなぞって鎖骨へ降りて行くではないか。
 これは刺客などではない。夜這いだ。
 がばっ、と飛び起きたマイクだが、相手の方が一枚上手だった。素早くマイクをベッドに組み伏せた。
「やあ、マイク。やっと会えたね、んふふ……滑らかな肌だ……」
「ひっ……ひぇ……」
「この時を楽しみにしていたのは君も同じだね?」
「な、何を言って……?」
「だって、俺が侵入したことに気付いていながら抵抗しなかったよね、それはすなわち……」
「んぎゃーっ!」

 マイクの悲鳴に、当然本営は騒然とした。
 マイクの部屋に駆け込んできたマイクの実弟・ハリーは、思わず叫んでいた。
「わーっ! いけません! 相手は丸腰です。一方的に激しく殴打するのは過剰防衛です、ヴェロニカさま!」
 マイクにのしかかって寝間着を脱がせにかかっていたのはもちろん、ノア王子である。
 そのノア王子を床に引き倒して激しく殴打しているのは、マイクの悲鳴を聞いて真っ先に飛び込んできた、ヴェロニカだ。
 一番の被害者であるマイクは、ヴェロニカの後ろで寝間着の襟をがっちり握りしめて、完全に放心している。
「この変態王子! どうやって檻から出た! マイクに何をした! 答えろ!」
「ちっ、乱暴な女だ。俺のマイクだ、俺が何をしようと勝手だろう?」
「お前のじゃないだろう!」
「ふん、俺が先だ。お前、横取りするなよ」
 わけのわからないことで胸を張るものだから、再びヴェロニカの棍が炸裂する。
 だが、ヴェロニカはふいに殺気を感じて飛び上がった。がばっ、と振り返った先には、一人の男が立っていた。
 やあ、とノア王子が優雅に挨拶をする。
「凶暴女、教えてあげよう。この人が、俺を檻から出してくれたんだよ!」
 この人、と呼ばれた男は、ノア王子を無視してツカツカとマイクに歩み寄った。そしていきなり、マイクの胸ぐらを掴みあげた。
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