王女・ヴェロニカ
「……マイク……貴様! 王女は渡さんぞ……この女はエンリケ一族に組み込まれる運命なのだ! 王女は、ヴェール・トート・エンリケのものだ!」
 この発言内容に、ようやくマイクが正気を取り戻した。
「ちょっとまてよ、おっさん! ヴェロニカがいつお前のものになったんだ! ヴェロニカは……」
 だがマイクの必死の抗議も、あっさりと流されてしまった。ノア王子が強引にマイクの体を抱き寄せたからだ。
「ヴェールくん、素晴らしい宣言だよ! ならば俺はこの女を諦めよう。なに、本命はコロンだがマイクがあれば俺は満足だからね、この女は親友である君に譲るとする」
 どん、と突き飛ばされたヴェロニカは、よろけてヴェールに凭れ掛かる形になった。
「ああ、有難いよ、ノア王子! 目障りなマイクはどうぞどこへでも持って行ってくれたまえ!」
 がっちり笑顔で握手するヴェールとノア王子に、ハリーは眩暈を覚えた。
(なんか……とんでもないことに……)
 だが、その場の和やかな空気をぶち壊したのは、怒りに震えるヴェロニカだった。ヴェーエルの腕を振りほどき、叫んだ。
「ちょっと! どうして捕虜が二人も自由に闊歩しているのか誰か説明しなさい! 見張りは何をしているの! それにマイクは貴様らのものではない……わたしのものだ!」
 さりげなく爆弾発言だが、残念なことにそれが聞き取れたのはハリーしかいなかった。
 なにせ、ヴェロニカの棍が信じられないほど高速で動いて、ヴェールとノア王子は容赦なく打ち据えられて気絶し、『嵐』を察したマイクはとっとと外に逃げ出していたのだから。

 (……どうしてこうも強烈な個性の人達ばかりが集まるんだろう……)
 ノア王子とヴェール、それぞれを手際よく縛り上げながらハリーは小さくため息をついた。
「兄上、ヴェロニカさま、害虫は二人とも縛り上げました」
「お、おお……助かった……」
「ハリー、ありがとう。こんな変なことをさせてしまってごめんなさい」
 ちょこん、と頭を下げたヴェロニカに手を振って応えたハリーは、二人の捕虜を引っ立てて立ち去って行った。
「マイク、災難だったわね」
「おう、ちょっと……びっくりした」
 ようやくマイクが笑顔を浮かべ、ヴェロニカもにっこり笑った。
「さ、今のうちに休みましょう。体は大丈夫? まだ毒が抜けきってないはずってビアンカが心配して薬を持たせてくれたの」
< 132 / 159 >

この作品をシェア

pagetop