王女・ヴェロニカ
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翌朝、種々諸々の『騒ぎ』を事細かに検分したグーレースは、苦虫をかみつぶしたような顔で唸っていた。
「……ヴェールはとっとと城へ送ってしまいたいぞ……」
「ええ、悪だくみをするエンリケ兄弟は引き離しておいた方がいいでしょうし、ここに置いておくといらぬトラブルを招きますから……。ってすみません、思わず他国の事情に口を挟んでしまいました」
と、新しいコーヒーを淹れながらハリーが言った。
「いや、まともに会話できる相手がいて少し安心いたしましたぞ。いつもなら、マイクとこうして話すのですがな……」
さきほど、マイクの様子を見に行ったら、ヴェロニカと並んで眠っていた。
余程疲れているのだろう、二人ともかなり深い眠りについているらしく、グーレースの気配に気付くことがなかった。
その寝顔に幼さをみつけてしまったグーレースは、布団を掛けなおしてそっと部屋を後にした。
「……エンリケ家の者の言うことを聞いて行動してしまう『白い亡霊』たちと、ヴェールを一緒に行動させるわけには行かず……」
ヴェロニカが率いてきた軍勢にヴェールを見張らせるのが手っ取り早い。
つまり、ヴェールがヴェロニカ軍を率いていると見せかけて、実はヴェールが軍に見張られていることになる。
そうやって城へ送り届けるのが一番なのだが、現時点でヴェールがヴェロニカ軍を率いる『適当な理由』が思い浮かばない。
「困ったものだ……」
そう唸るグーレースの視界にヒーリアの姿が入ってきた。ビアンカと一緒に買い物に行って来たらしく、手には新鮮な果実を持っている。
「おや、グーレースどの、徹夜か?」
「これは妙なところを見られてしまいましたな……。この年になると徹夜は堪えますな」
「近衛長官……というか、保護者は大変であるな」
「恐れ入ります」
ハリーとビアンカは肩を並べて本営に戻り、ヒーリアはハリーにかわってグーレースの向かい側に腰を下ろした。
近頃では、ビアンカとハリー、ヒーリアとグーレースという組み合わせで寛ぐことが増えている。
「グーレースどの、お願いが……」
「なんでしょうかな」
「わらわはこのままリーカ国を訪ねてみたい……。もちろん、王族の皆様を煩わせるようなことはせぬ。一般人としてちょっとだけ……それでも迷惑であろうか?」
(おお、これだ!)
グーレースの目がらーん、と光った。