王女・ヴェロニカ
「いえ、ヒーリアさま、ちとご相談が……」
「なんであろうか?」

 グーレースとヒーリアが密談をしていた、という話はすぐに広まった。
「グーレース長官、再婚か!?」
 などという下世話な勘繰りをするものがいないでもなかったが、グーレースとヒーリアの『密談』の中身は、すぐに判明した。
「なに? グーレース、この私にご婦人方の護衛をせよと申すか?」
 その日の午後の『ティータイム』は、ヴェールとヒーリア、グーレースにビアンカ、そしてヴェロニカという不思議な組み合わせだった。
 匂いの良い紅茶と程よい甘さのクッキーはヴェールの好み、それをヴェロニカが朝市で選んできたと言うことになっているので、ヴェールはご機嫌だ。
「こちらのご婦人は、我が国にとって非常に大切なお客さまでありまして、ヒーリアさまとおっしゃるのです。ノア王子のご側室さまでありますが、ビアンカさまを助けて下されたのです」
 ほう、そんな出来事が、とヴェールがビアンカをみた。
「わたくし、先日ノア王子に浚われました、けれどもその時、ヒーリアさまとハリーに助けていただかなければ、今頃ここにはおりません。死んでいたでしょう」
「ご側室と申されたか。なぜ他国の妃がジャジータの町で、しかもリーカ国軍の本営に……?」
 まさか、ビアンカを後宮から逃がしたことがバレてノア王子に檻に入れられて運ばれてきた、と言うわけにはいかない。
 一瞬言葉に詰まったビアンカとは対照的に、ヒーリアは落ち着き払ったもので、艶やかな笑みを浮かべている。
「ビアンカさまを追いかけるノア王子の軍と一緒に参りました。ノア王子の御無礼を、リーカの国王陛下に謝罪しなければなりません。しかし、事が事だけに、我が国の王や皇后、王子の正室が堂々と出向くわけにも参りませんでしょう? そこでわたくしに白羽の矢がたったのです」
「そうだったのか」
 ヴェールはあっさりと納得して、紅茶を美味そうに飲みほした。
「そんな御方を、我が国の一方的な事情で長々とこの町に足止めしては申し訳ないゆえ、一足先にビアンカさまと一緒にリーカまで行っていただくことになりましてな。しかし、ヒーリアさまとビアンカさま、ハリーの三人だけで砂漠を歩かせるわけにはまいりませんので、護衛をお願いしたいのです」
 ヴェールが顎を撫でながら一同を見た。ビアンカも
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