王女・ヴェロニカ
「よろしくお願いいたします。わたくしの、大切な方なのです」
 と、笑顔で言葉を添えれば、ヴェールは笑みを深くした。
 それを逃さず、テーブルの下でビアンカにつつかれたヴェロニカが、
「他に適任者がいないから、貴殿に頼もうと思う。どうだろうか」
 と若干ぶっきらぼうだが、言葉を添えた。
「なに、王女も私が適任とおっしゃるか」
「……はい。我が軍はただ今、人材不足、ことに一軍を率いる将が足りません」
 これは嘘ではない。だからヴェロニカもすらすら言うことができた。
 ヴェールの機嫌がどんどん上向いてきたのを素早く察したヒーリアが
「聞けばヴェールどのはリーカ国内でも優秀な軍人だとか。ヴェロニカさまからそう聞きました。しかも、百人ものリーカ兵の精鋭が守ってくれるとは何とも心強い。ヴェールどの、よろしく頼みます」
 と、一気に話を持って行った。いよいよ有頂天になったヴェールは、
「わかりました。ヒーリアさまを、このヴェール、しっかりコロン陛下のところまでお連れしましょう! グーレース、兵は百では足りんぞ、もう少し増やせ。ああ、傭兵や民兵は混ぜるな、正規のリーカ兵のみにせよ」
「かしこまりました。用意が出来次第、ご連絡いたしますゆえ、しばし本営でお待ちを……」
「うむ、急げよ、しかし抜かりなく準備を致せ」
「ははっ」
 鼻歌を歌いながら去っていくヴェールの後姿を見送って、グーレースとビアンカはため息をついた。
「予想以上にうまく行きましたわね……」
「はい……調子が良すぎて、ちと、不安ですな……」
 しかし、あとはヒーリアとハリーがうまくやってくれるだろう。
 グーレースは、少し離れたところでフィオの出発準備を手伝っているハリーを見た。
 マイクの弟というだけあって、こちらも利発な青年だ。マイクに負けず劣らずの環境で育っているはずなのだが、見る限り、好青年に育っている。
 ビアンカのことも、何があってもきちんと守ってくれるだろう。
(そう……ここからどうやってエンリケ・兄を始末したらよいものか……)
 弟を奪われ、戦力の一部を削られたエンリケが、このまま大人しくしているものだろうか。
 エンリケの目的は、ビアンカを正妃の座につけて、その子に王位を継がせること——。
 これを企む家臣は、過去に何人もいた。
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