王女・ヴェロニカ
討て。そして、立て
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 エンリケが、己の予定が大いに狂うことに苛立ち。
 グーレースがエンリケを倒す策が思い浮かばずに苛立っている間にも、帰還準備はどんどん進む。
 ヴェロニカ軍本営をピッカ一団と一緒になって急襲した兵はおよそ三千〜四千。その大半は「リーカ軍の正規兵」だった。
 エンリケの指示に従ってしまう彼らをこのままジャジータに置いておくわけにはいかないため、フィオ率いる傭兵・民兵軍が首都まで彼らを「護送」することになった。 
 この町へ来るときは少年兵に混ざっていたフィオだが、今回は大将、制服で馬に跨っている。
 その顔にはどこか誇らしげな笑みが浮かんでいるのだが、顔が引きつっているのは傭兵部隊の方である。
「こいつらをエンリケに奪い返されちゃいけねぇ! おめぇら、気ぃ張っていくぞ!」
「俺たちの王子さんに怪我させるな! 王子さんの経歴に泥を塗るな!」
 良く晴れた空をも震わせる兵たちの声に後押しされたフィオが、笑みを浮かべたまま敬礼をした。
「テオフィオ部隊、出発! ねえさま、グーレース長官、マイク、ご武運を!」
「フィオ、気を付けて……!」
 小さくなるフィオ部隊を見送ったヴェロニカは大きくため息をついた。
「これでフィオが直接エンリケに狙われる心配はなくなったわね。で……グーレース、エンリケ軍は二万人くらいになったかしら?」
「はい。しかし、我が軍もこれでおよそ二万に減りました。戦力はほぼ互角と思っていた方が良いでしょうな」
「ホントはもう少し正確な人数が知りたい。もっと言えば、戦力を出来るだけ削っておきたいところだよな」
 マイクとグーレースが視線を交わらせるが、ヴェロニカはきょとんとしていた。
「あれ? マイクもグーレースも、ここでエンリケを叩くつもりなの?」
 マイクが呆れた声をだした。
「おいおい、ヴェロニカ……お前はどこでエンリケを叩くつもりなんだ?」
「んー? なんとなく、父さまの率いる正規の討伐軍が叩き潰すのかな、って思ってたの。わたしは、ビアンカ救出という名目で軍を動かしてるでしょう? 勝手に討伐していいの?」
「ああ、それは構わないだろ、臣が正当な理由もなく兵をたくわえてるんだ、王族が問い質したっておかしくないと思うぞ」
「反逆の疑いあり、ってこと?」
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