王女・ヴェロニカ
「疑いどころか……。勝手に離宮を建てて、勝手に兵をたくわえて、勝手に御禁制の薬物で私腹を肥やして……これを野放しにするやつはいないと思うぞ」
「王より軍を預けられているヴェロニカさまならば、王の代理としてエンリケを討伐、或いは捕縛しても誰も文句は言わないでしょう」
 そうなのか、とヴェロニカは件の離宮を見た。不気味なほどにひっそりと静まり返っている。

 本営へ三人が戻ると、入り口から中を伺う、怪しげな人影が二つあった。
 片方は丸々と太って小柄、もう片方はひょろりと細長い。
「うっわ、いかにも怪しい男よ!」
 ヴェロニカの眼がキラキラ輝く。いそいそと棍を取り出して、丸々太った男の肩を叩いた。
「ちょっと、うちに何かご用かしら?」
 振り返った男たちは、突き付けられた棍と満面の笑みのヴェロニカにぎょっとして、気の毒なほどうろたえた。
「わーっ、あの時の姐《あね》さん、でたーっ!」
「おれたち怪しい者じゃねぇっす! マイク船団の者っす!」
「マイク船団……? え、マイクの仲間?」
 ぐるん、と後ろを振り返れば、マイクが呆れた顔でコクコク頷いている。
「あー、ヴェロニカ、そいつらは悪い奴じゃねぇ。棍を引いてやってくれ」
「……わかった。少しでも妙な素振りを見せたら、直ちに叩き出す」
 ヴェロニカの宣言に、二人の男は飛び上がってマイクの後ろに隠れた。
「怒らせなきゃ大丈夫だ。まあ、中に入ろうぜ」
 おじゃましまーす、と小さい声で言いながら二人の海賊はヴェロニカをちらちら気にしている。
「……お頭、この別嬪さんが、王女さんで?」
「おう、この国の第一王女・ヴェロニカ王女殿下だ。そっちのおっさんは俺の武術の師匠・グーレース。職業はリーカ王国の近衛長官だ。ヴェロニカ、師匠、こいつらは俺の仲間だ」
 丸々太ったほうが、サム。ひょろ長い方が、ジョグ。
 二人とも十代後半、かつてジャジータの町で悪さしているところをマイクに拾われたらしい。
「でっでっ! お頭! 大変なんですよっ!」
「おう、どうした?」
 サムが、肩から下げた布袋からボロボロの箱を取り出した。
「これ、どうやらすんごいお宝みたいですぜ! エンリケが法外な額で買いたいって言ってきました」
「へぇ……これ、長らく買い手がつかなかった古文書だよな」
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